研究実績の概要 |
新興食中毒細菌であるEscherichia albertiiによる食中毒が世界的に報告される中、特に我が国においては集団食中毒もこれまで度々発生している。本菌は食用動物の他、様々な野生動物からも分離報告があり、本菌もまた人獣共通感染症細菌であることがわかってきたが、自然宿主については未だ同定されていなかった。本研究では、本菌の自然宿主を同定することを目的とした野生動物の保菌調査を行い、アライグマが本菌を高率に保菌することを見出した。最終年度は、分離株の性状解析、特に遺伝学的解析を行った。実施期間中にアライグマ286個体から1,362の分離株を得ることができた。個体内の多様性を簡易PCRにより調べた結果、個体内で同一の遺伝子型が多数見つかり、分離株は最終的に340菌株となった。パルスフィールドゲル電気泳動による解析の結果、340株は119種のPFGEパターンに分けられ、アライグマが遺伝学的に多様なE. albertiを保菌していることが明らかになった。一方で、個体間で同一のパターンを示す菌株も存在し、中には年を越えても維持されるクローンが存在することも明らかになった。更に、保有する臨床分離株(50株)も含めて比較すると、類似したPFGEパターンを示す例が認められた。更に、より識別能が高い方法として全ゲノムシークエンス取得し、SNPsによる菌株の多型解析を行ったところ、アライグマ由来株と患者由来株とで系統的に非常に近いことを示す結果が得られた。これらの結果は、アライグマは自然宿主としてE. albertiiを保菌・維持しており、何らかの経路を介してヒトへの感染源となっている可能性があることを示していると考えられた。
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