脳内に存在するグリア細胞のうち、主に免疫機能を担うミクログリアと中枢神経系の構造維持などに関与するアストロサイトに焦点を当て短鎖/中鎖脂肪酸および脂肪酸関連物質としてリゾリン脂質の中枢炎症性変化に対する効果を検討した。リポポリサッカライド(LPS)誘発神経炎症性変化に対して、酢酸 (C2)、酪酸 (C4)、カプロン酸(C6)、カプリル酸(C8)、カプリン酸(C10)とラウリン酸(C12)はミクログリアの炎症性変化(一酸化窒素(NO)産生、活性酸素種(ROS)産生、MAP キナーゼ活性化および貪食能の亢進)を抑制したが、アストロサイトにおいてはC2のみ抑制性に働き、C4からC12においては逆に炎症性変化を増悪させた。チオアセトアミド誘発肝性脳症モデル(in vivo)を用いてC2の効果を検討したところ、アストロサイトのswelling抑制に基づく脳浮腫を抑制することが確認出来た。 加えてリゾリン脂質の一種であるリゾフォスファチジルイノシトール (LysoPI) とリゾフォスファチジルセリン(LysoPS)の炎症性変化に対する効果もさらに検討した。LysoPI はLPS による炎症性変化(NO産生増加、ROS産生増加、貪食能亢進、炎症性サイトカイン産生の増加)を抑制する一方、LysoPSは逆に増悪させる方向に働くことを明らかにした。 このように、グリア細胞間およびリゾリン脂質で炎症性変化に対する効果が異なることが明らかとなった。どのような機構でこの差が生じるのかは今後の課題である。
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