研究課題/領域番号 |
20K06418
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
五味 浩司 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (90293240)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 内分泌顆粒 / セクレトグラニン3 / セクレトグラニン2 / 副腎髄質細胞 / カテコールアミン / クロム親和性細胞 / 褐色細胞腫 / 伴侶動物 |
研究実績の概要 |
セクレトグラニン3(Sg3)はペプチドホルモン産生細胞においてホルモン顆粒の凝集や顆粒形成に関与する分子として知られている。一方、当初はSg3の発現が否定的であった副腎髄質のカテコールアミン産生細胞でも発現していることを我々は見出した。活性アミン産生細胞におけるSg3の機能は不明であり、ペプチドホルモン産生細胞においてSg3と相補的機能をもつことが予想されるセクレトグラニン2(Sg2)の発現も認められる。そこで、Sg3とSg2の発現特性をイヌ副腎髄質において解析した。新たな解析ツールとして、Sg3に対する新規マウスモノクローナル抗体も作成した。正常組織において免疫組織化学的に両者の共発現は完全には一致せず、クロマフィン細胞間で異なっていた。また、分泌顆粒形成への関与を想定し、小胞モノアミントランスポーター2(VMAT2)との共発現を検討した結果、Sg3では共発現が認められ、発現パターンはSg3結合分子のクロモグラニンAのそれと似ていたが、Sg2では共発現が認められない細胞亜集団が存在していた。これらの結果は、副腎髄質細胞においてSg2とSg3の発現パターンの違いを示した最初の知見である。さらに、伴侶動物におけるセクレトグラニン発現と副腎疾患との関連性に関する報告は無いため、日本大学動物病院にて外科的に切除されたイヌ副腎髄質由来の褐色細胞腫の組織標本において、Sg2、Sg3の発現パターンと血漿カテコールアミン濃度を指標にした臨床所見との関連性を調べた。その結果、腫瘍組織では正常組織と比べてSg2とSg3の発現が低下していた。Sg2、Sg3発現と血漿カテコールアミン濃度の相関性は症例ごとのばらつきもあり、明確でなかった。また、Sg2は一部腫瘍組織で単一細胞レベルの強い発現を示した。これらの知見は正常副腎と褐色細胞腫におけるセクレトグラニンの発現特性に関する新たな情報を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1. 副腎髄質のカテコラミン産生細胞におけるSg3発現について、これまで報告したニワトリ、マウスおよびラットに加え、イヌ、ウシの組織において確認した。今年度までに報告したSg3ジーントラップマウス(Sg3-gtKO)におけるLacZレポーターの発現解析から得られた結果は、免疫組織化学解析の結果と合わせて、副腎髄質におけるSg3の発現を確定的なものとした。 2. Sg3-gtKOの副腎髄質において、カテコールアミン産生細胞の形態解析を電子顕微鏡レベルで行う内容については、エポン樹脂包埋した通常標本において、分泌顆粒の微細構造や分布密度の定量的解析を進めている。また、高親水性アクリル樹脂に包埋した免疫電顕標本を作成し、金コロイド法(ポストエンベディング法)によるSg3の分布局在について解析を進めているが、これまでに、Sg3およびアドレナリン産生細胞マーカーであるフェニルエタノールアミン-N-メチルトランスフェラーゼ(PNMT)の局在について、クロマフィン顆粒における免疫反応を検出することに成功している。同法を用いた神経細胞(小脳梨状神経細胞)および神経膠細胞(海馬アストロサイトおよび小脳バーグマングリア)におけるSg3の検出は成功していないが、これはSg3の発現量がペプチドホルモン産生細胞やカテコールアミン産生細胞と比べてかなり低いことに関連するものと考えており、さらなる検討を加える。 3. Sg3の疾患関連性の解析については、イヌの副腎褐色細胞腫の外科処置の際に採取された組織についてSg3、Sg2、CgA、細胞増殖マーカーPCNA、シナプトフィジン等の免疫組織化学的解析を行い、内分泌腫瘍組織におけるグラニンタンパク質発現の関与と血中カテコラミン濃度変化といった臨床所見との対応を明らかにすることができ、獣医学領域におけるSg3の疾患関連性の最初の報告となった。
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今後の研究の推進方策 |
1. Sg3発現の有無がカテコールアミン産生細胞の形態や関連分子の発現変化にどのように関与しているのかをSg3-gtKOと対照マウスの副腎髄質で比較解析する。具体的方法として、光顕レベルの免疫染色、通常電顕標本での分泌顆粒の分布密度や細胞小器官の微細構造変化、免疫電顕標本での関連タンパク質(CgA、Cg B、Sg2、VMAT1、VMAT2)の発現および局在変化の解析を行う。 2. 主要なSg3発現組織である下垂体において、下垂体を構成している各種ホルモン分泌細胞においてSg2、Sg3、CgAおよびCgBがどのような発現パターンを示すのかを抗ホルモン抗体との多重免疫染色を光顕および電顕レベルで解析を行い、グラニンタンパク質の使い分けを明らかにする。 3. 組織としてのマス容量が大きく、生化学的解析の実施に有利であるウシあるいはブタの副腎髄質においてSg3とその関連分子の相互作用について解析を行う。方法として、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)融合Sg3タンパク質を用いたプルダウンアッセイや、抗Sg3抗体またはCgA、 CgBおよびSg2といった関連分子に対する抗体を用いた免疫共沈反応を行う。VMATおよびPNMTについても解析し、カテコールアミンの種類における差異や顆粒形成における関わり、および顆粒サイズや顆粒寿命といった顆粒形態の特徴と関連付けた考察を加える。 4. Sg3の疾患との関連性をさらに検討するため、病態組織としてインスリノーマまたはインスリン様成長因子2を発現する肝臓腫瘍組織を解析する。これまでに行った褐色細胞腫と同様、伴侶動物であるイヌまたはネコの外科的摘出組織を用いる。解析は免疫組織化学的手法および血中Sg3値の測定を行い、病態との関連性について検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症による所属機関における教育業務の負担が極めて大きく(対面授業とオンデマンド授業の二重授業の実施に伴うそれぞれの教材作成と配信、過密を回避した班構成による対面実習の実施により、約120名の学生数を4分割した同一実習の4回繰り返しなど)に起因して、研究計画エフォートの低下が予算執行にも影響がしたことが主な理由である。また、令和3年度は得られたデータを中間結果として論文発表することを目的として、論文原稿の作成に多くの時間を割いたため、消耗品費の支出が少なかった。学会発表についてもオンデマンド開催による参加により、旅費・宿泊費の支出がなかった。次年度の使用計画として、推進予定のる研究内容を行うための試薬類購入費(抗体、一般試薬)、実験動物(マウス・ラット)の購入費、屠場材料(ウシ・ブタ組織)の購入費、および電子顕微鏡解析関連の消耗品としての使用を計画している。
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