セクレトグラニンⅢ(Sg3)はペプチドホルモンの分泌顆粒への選別輸送に関わる分子であるが,個体レベルでSg3の発現解析を進めた結果,神経組織や副腎髄質の機能とも関わることが示唆された。ジーントラップ法により作製したSg3欠損マウスにてLacZレポーター遺伝子の発現を指標に全身性に発現細胞を解析した。発現は従来知られていたペプチドホルモン分泌細胞の他に,視床下部内分泌ニューロン,小脳の梨状細胞,ゴルジ細胞,バスケット細胞およびバーグマングリア,大脳皮質錐体細胞,脳室上衣細胞で発現を認めた。特に海馬星状膠細胞では強い発現を認め,免疫組織化学的解析結果と合致した。末梢では,網膜ニューロン,視神経星状膠細胞,神経節ニューロンおよび膠細胞などで発現を認めた。また,培養グリオーマ細胞株において,グルタミン酸刺激によるSg3発現の増加が確認され,ペプチドホルモン顆粒形成機能に加え,機能的多様性が予測された。申請者はSg3の副腎髄質細胞での発現を初めて報告したが,その意義について,クロマフィン顆粒形成への関与を想定し,イヌ副腎髄質における小胞モノアミントランスポーター(VMAT)との相互作用を検討した。免疫組織化学的にVMAT2との共発現を確認し,Sg3相補性分子のSg2との比較解析において,共発現パターンが異なっていた。ウシ副腎髄質乳剤での共免疫沈降反応とGST融合タンパク質を用いたプルダウン法によって解析したVMATとの相互作用は有意ではなかった。さらに,伴侶動物の腫瘍性疾患とSg3の関連性を褐色細胞腫の患者犬において解析した結果,血中カテコールアミン値による高低2群間において,Sg3はクロモグラニンAと似た発現挙動を示したが,Sg2は示さなかった。得られた成果は,Sg3の分子特性の新たな理解をもたらすと共に,獣医学領域における関連疾患の病態理解にも貢献するものである。
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