研究課題/領域番号 |
20K06421
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
鈴木 亨 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 動物衛生研究部門, 上級研究員 (10362188)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 腸管オルガノイド / in vitro培養 / 自己複製能 / 腸管上皮細胞 / 多分化能 |
研究実績の概要 |
家畜の下痢は、発育や体調管理の大きな阻害要因となるだけでなく、重症化して死に至ることがあるため、看過することはできない。家畜に下痢などの消化器病を引き起こす病原体の大半はウイルスであるが、その制御法や予防法を確立するためには、ウイルスの性状と感染メカニズムなどを十分に理解することが重要である。牛の消化器病ウイルスの感染メカニズムを理解する上で動物実験は有用であるが、コスト、労力および施設の問題に加え、社会環境の変化から動物実験の実施は困難であり、これに代わる研究ツールの開発が急務の課題である。本研究では、他の動物種に比べて研究が遅れている牛の消化器病ウイルスに関して、その研究を飛躍的に発展させるための研究ツールとして、実験室内で取扱うことができる牛個体の腸管を疑似した構造と機能を備える腸管オルガノイドを樹立し、さらにそれを用いたウイルス実験感染系を確立することを目的とする。 昨年度までに、樹立した牛腸管オルガノイドがin vitroでの連続培養が可能であることに加えて、遺伝学的にも自己複製能が維持されていることを実証した。今年度は腸管オルガノイドのもう一つの特徴である全ての腸管上皮細胞(吸収上皮細胞および分泌系細胞(パネート細胞、杯細胞および内分泌細胞))への多分化能について組織形態学的に検証し、樹立した牛腸管オルガノイドが両特性を兼ね備える有用な研究ツールであることを実証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究を通じて樹立した腸管オルガノイドは自己複製能に加えて、全ての腸管上皮細胞へ分化する能力(多分化能)を有する必要がある。そこで、腸管上皮細胞を構成する腸管上皮幹細胞、吸収上皮細胞、内分泌細胞、杯細胞およびパネート細胞の各種細胞で特異的に発現するタンパク質の抗体を用いて免疫組織化学染色法を実施し、それらの局在を観察した。その結果、上記いずれの細胞も存在することが明らかとなったことから、樹立した腸管オルガノイドは自己複製能と多分化能を共に有していることを実証した。これらの成果はいずれも当初の計画通りに進行していることを表している。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画通り、昨年度および今年度を通じて、世界に先駆けて牛腸管オルガノイドの樹立に成功した。最終年度は樹立した腸管オルガノイドに牛消化器病ウイルスを感染させ、その後のウイルス増殖や感染動態の観察・解析を通じて、生体を用いた動物実験に代わるウイルス実験感染系としての有用性を検証する。
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