主要家畜である牛の消化器病ウイルスの感染・発病メカニズムを解明する上で動物実験は欠かせない。施設およびコストや労力の問題に加え、社会環境の変化から牛を用いた動物実験の実施は困難であり、これに代わる研究ツールの開発が急務の課題である。本研究では実験室内で取り扱うことができ生体の腸管と類似した構造と機能を兼ね備えた牛腸管オルガノイドを世界に先駆けて樹立し、このオルガノイドが消化器病ウイルスの実験感染系として有用であるかを検証した。牛より採取した腸管上皮幹細胞に対して4つの必須因子(Wnt、EGF、Noggin、R-spondin)以外に別の3つのシグナル伝達制御因子を加えることで牛腸管オルガノイドの樹立に成功した。ついで、得られたオルガノイドを上記の最適培養条件下で連続して10代継代しても、自己複製能と腸管上皮細胞を構成する全ての細胞に対して分化できる能力(多分化能)が維持されていることを遺伝学的および組織形態学的に証明した。この樹立したオルガノイドに対して、当研究室保有の牛コロナウイルス複数株(野外検出株を含む)を感染させ、経時的に回収した培養上清中におけるウイルスの増殖をリアルタイムRT-PCRで観察・解析した結果、全ての株が本オルガノイド内で効率的に増殖することを明らかにした。以上のことから、樹立した牛腸管オルガノイドは牛消化器病ウイルスの感染・発病メカニズムを解明する上で動物実験に代わる有用なツールとなり、大型家畜であるがためにこれまであまり進展がなかった当該分野の研究を飛躍的に発展させる可能性を含んでいる。
|