研究課題/領域番号 |
20K06424
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
細谷 謙次 北海道大学, 獣医学研究院, 准教授 (50566156)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ミトコンドリア / がん幹細胞 / 放射線治療 / 分子標的療法 / 放射線耐性 / グルタチオン / 遺伝子導入 / イヌ |
研究実績の概要 |
悪性腫瘍組織中には、化学療法や放射線に対する抵抗性を有するCancer stem-like cells(CSCs)が存在し、放射線治療後の再発の一因となっていることが示唆されている。本研究では、犬腫瘍細胞株に遺伝子組み換え技術を用いてCSCsを蛍光発色させる技術を確立している。2021年度は、本技術を用いて作成したCSCs可視化細胞株(骨肉腫および膀胱移行上皮癌)にて、CSCsが高い放射線抵抗性を示すことに加え、以下に示す各種の解析を行った。①フローサイトメトリー法によるCSCsの単離、②CSCsのクローン性生存解析、③DNA二重鎖切断修復能、④ROSスカベンジ能、⑤細胞内グルタチオン(GSH)含有量 その結果、単離されたCSCsの放射線抵抗性はnon-CSCsより有意に高く、ⅹ線照射後のROS蓄積量およびDNA二重鎖切断部位の数は有意に低い結果となった。これは、CSCsの放射線抵抗性の機序として、細胞内ROSのスカベンジ能が高く、ROSによるDNA二重鎖切断の発生を抑制していることを示唆している。ROSのスカベンジャーとして代表的な細胞内成分であるGSHを測定したところ、CSCsでは正常細胞と比較して有意に高い細胞内GSH含有量が示された。さらに、GSH合成経路を阻害することでCSCsの放射線抵抗性をリバースできるとの仮説から、GSH合成阻害剤の探索を行ったところ、SulfasalazineがGSH合成抑制効果を持つことが確認でき、上記の細胞株にSulfasalazineを作用させた場合、CSCsに対する放射線増感効果が認められることも確認できた。上記研究成果は学術誌に投稿済みであり、掲載が決定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度の本研究の進捗としては、研究の方向性は当初の計画から若干の変更を認めるものの、おおむね順調に進行していると考えられる。 当初の予定通り、CSCsの可視化とフローサイトメトリー法を用いた単離技術は確立でき、CSCsが放射線抵抗性であることも確認できた。当初の研究計画では、CSCsのミトコンドリアの呼吸鎖に何らかの特徴があり、それが放射線抵抗性の主な機序となっていることを想定していたが、研究を進めるに従って、細胞内グルタチオン合成経路の活性化も放射線抵抗性に大きく寄与していることが示された。そのため、当初予定していた実験計画に加えて、グルタチオン合成経路を標的とした放射線増感戦略についても実験を行い、論文化する運びとなった。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度まではおおむね計画通りに研究が遂行されているため、大幅な変更は予定していない。現在はがん組織内のCSCsにおいて、ミトコンドリア機能の異常亢進を客観的に評価する手法を確立しつつある段階であり、2022年度においては、この手法を臨床サンプルに応用する実験に着手する予定である。具体的には、臨床例(犬自然発生腫瘍)から採取した細胞サンプルを直接ミトコンドリア機能解析に供し、培養細胞ではなく個々の臨床例における腫瘍のミトコンドリア機能異常を検出することを目的として、手技の確立を目指す。COVID-19感染拡大による影響として、研究に従事する大学院生、学部学生の活動に若干の影響は認められるものの、大幅な研究の進捗の遅れとはなっていない。ただし、今後のCOVID-19関連の情勢次第では研究の一時的な中断や遅延の可能性も否めないため、可能な限り前倒しで計画を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19関連の影響により、各学会のオンライン化が進み、当初予定していたよりも旅費の支出が抑制されたことによる。 次年度の実験に必要な消耗品の購入に充てる予定である。
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