研究課題/領域番号 |
20K06429
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
酒井 洋樹 岐阜大学, 応用生物科学部, 教授 (40283288)
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研究分担者 |
村上 麻美 岐阜大学, 応用生物科学部, 助教 (30597125)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 血管肉腫 / Peroxiredoxin / 犬 |
研究実績の概要 |
【背景】活性酸素種は細胞に酸化傷害を与える一方で,各種たんぱく質の酸化還元状態を変化させ活性を制御する(Redox制御)。活性酸素種の消去によってその存在量を調整する抗酸化たんぱく質の一つとしてPeroxiredoxin (Px)がある。近年,ヒトの様々な腫瘍の増殖や転移へのPxの関与が報告されているが、動物の腫瘍での報告は乏しい。本研究では,犬の血管内皮腫瘍において,動物では明らかでないPx1および2の発現を免疫組織化学的に検索した。【材料と方法】犬の海綿状血管腫(26例)と血管肉腫(65例)の病理組織標本を用い、Px1,2の免疫染色を行い,過去の報告に従い,陽性強度(0-3)および陽性比率(0-4)を評価し,両者を乗じて,半定量的にスコアリングした(0-12)。また腫瘍近傍の正常組織の染色性も調べた。【結果】Px1,2ともに細胞の核および細胞質が陽性を示した。腫瘍近傍の正常な組織では,表皮,毛包上皮,線維芽細胞,血管内皮細胞はPx1,2ともに-~+,皮脂腺,マクロファージはPx1+,汗腺や赤血球はPx2+であった。脾洞内皮細胞はPx1-~+,Px2-,リンパ球はPx1+,Px2-,赤芽球系細胞はPx2+であった。血管内皮性腫瘍では,海綿状血管腫においてはPx1,2ともに陰性の症例も多かった。発生部位にかかわらず血管肉腫では,海綿状血管腫に比べ、Px1,2の陽性スコアが有意に高かった。【考察】ヒト肺がんにおいてPx1,2が腫瘍細胞の増殖促進やアポトーシス抑制に関与し,また犬の血管肉腫でPx6が腫瘍細胞のアポトーシスを抑制することが報告されている。今回の結果から、Px1および2の高発現により,血管肉腫の悪性化に関与する可能性が示唆されたが,in vitroの検索を含めたさらなる研究が必要と考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
犬の血管肉腫の自然発生例の病理組織標本を用いた免疫染色において,Peroxiredoxin 1および2の高発現を明らかにした。この成果は,日本獣医学会で発表し,またThe Journal of Veterinary Medical Science誌に投稿した(2022年5月受理)。現在は,本研究室で樹立した犬の血管肉腫細胞株を用い,Peroxiredoxin 1および2の発現(RTY-PCRによりmRNA,ウエスタンブロッティングによりタンパク質)を確認している。また,RNA干渉によるPeroxiredoxin 1および2のノックダウンによる,血管肉腫細胞の生存率,浸潤性などへの影響を評価する実験系確立のための予備的実験を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,引き続き,本研究室で樹立した犬の血管肉腫細胞株を用いたPeroxiredoxin 1および2の発現確認を行ったのち。RNA干渉によるPeroxiredoxin 1および2のノックダウン(1のみ,2のみおよび両方)による,血管肉腫細胞の生存率,浸潤性などへの影響を評価する実験系を確立し,血管肉腫細胞におけるPeroxiredoxin 1および2の関与を解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験の進行状況により,共同研究者の使用金額が少なかったので。
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