犬の腫瘍における抗酸化タンパク質であるペルオキシレドキシン(PRDX)1および2の発現の基礎的情報を得るために,犬の正常組織および代表的な自然発生腫瘍におけるPRDX1および2の発現を免疫組織化学的に検索した。表皮扁平上皮細胞や皮脂腺およびアポクリン汗腺などの上皮細胞では,PRDX1および2強陽性,乳腺の管腔上皮細胞は PRDX1陽性かつPRDX2陰性,腎臓では尿細管上皮細胞が,肝臓では肝細胞および胆管上皮細胞がPRDX1および2が陽性であったが,膀胱移行上皮細胞は,PRDX1強陽性,PRDX2陰性であった。血管内皮細胞はPRDX1および2のいずれも陰性で,脾臓では,PRDX1はリンパ球や赤血球系細胞で陽性,PRDX2は赤血球系細胞のみで陽性を示した。犬の正常組織におけるこれらの発現性は,ヒトやげっ歯類の正常組織における発現の報告とほぼ一致していた。毛包性腫瘍や扁平上皮癌,乳腺腫瘍,移行上皮癌などの上皮性腫瘍では,腫瘍細胞がPRDX1および2に強陽性を示した。口腔扁平上皮癌において,皮膚扁平上皮癌と比較してPRDX1の陽性スコアが有意に高く,口腔扁平上皮癌におけるPRDX1の発現亢進は,その悪性挙動に関与している可能性が考えられた。T細胞性リンパ腫はPRDX1が陽性であったが,正常なリンパ節のT細胞からなる傍皮質領域ではPRDX1が陰性であったことから,PRDX1の免疫染色はリンパ節の傍皮質領域の過形成とリンパ腫の鑑別に有用である可能性を見出した。肥満細胞腫では,Gradeが高いものでPRDX2の陽性スコアが高く,悪性度へのPRDX2の関与が疑われた。さらに血管内皮性腫瘍では,良性の海綿状血管腫と比較して,血管肉腫において,PRDX1および2の陽性スコアが顕著に高く,犬の血管肉腫から樹立された細胞株を用いたPRDX1のノックダウン実験から,細胞増殖の遅延が生じた可能性が示唆され,PRDX1は犬の血管肉腫細胞の細胞増殖の亢進に関与する可能性が考えられた。
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