当初予定していた健康な採卵鶏の糞便由来株を供試するべく養鶏場に糞便収集の協力を求めたが、諸般の事情によりを採取できなかった。そこで、鶏個体を用いた病原性を検討する上で従前より確立していた蛍光プラスミドを導入した鶏大腸菌症由来株を用いて病原性を確認したところ、親株と同等であった。本金株を今後の感染実験等において菌の体内動態を把握することに活用できる可能性が示唆された。 本研究を通じて、大腸菌症に罹患した鶏由来の大腸菌においてphylogenetic group F(以下、グループF)が占める割合は、健康鶏関連株における割合に比べ有意に高く、グループFに属する大腸菌症由来株のうち87%が病原性関連遺伝子の保有状況から大腸菌症の原因菌であると判定された。したがって、グループ Fに属し多数の病原性関連性遺伝子を保有する大腸菌が主にブロイラーと採卵鶏の大腸菌症に関与することが明らかになった。一方、健康鶏関連株においてはグループ A又はB1が占める割合が高く、病原性関連遺伝子をほとんど保有していなかった。鶏胚接種試験における病原性の指標である30%以上の鶏胚致死率を示す菌株は大腸菌症由来株のうち約半数であった。しかし、鶏胚致死率が30%未満の菌株における平均の致死率(16%)は、健康鶏関連株における5%に比べ有意に高かった。したがって、鶏胚接種試験における病原性の程度は、大腸菌の由来に相関する傾向にあった。以上の成績から、グループ Fで病原性関連遺伝子を保有する大腸菌が鶏大腸菌症の発生に関与していることが強く示唆された。
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