最終年度は,嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子(cystic fibrosis transmembrane conductance regulator: CFTR)遺伝子における5種類の遺伝子多型と胆嚢疾患との関連性を解析した。その結果,遺伝子多型Xが胆泥症および胆嚢粘液嚢腫の発生と有意に関連することが明らかとなった。複数の遺伝子多型を有する個体も認められたが,これらの複合的な遺伝子多型と胆嚢疾患の関連性は認められなかった。研究期間全体の総括として,本研究課題では,塩素イオンチャネルであるCFTRに着目し,その遺伝子多型と犬の胆嚢疾患との関連を解析した。はじめに犬のCFTR遺伝子多型の網羅的探索により,アミノ酸置換を伴う多型として,既知の3種類に加えて新たに1種類の多型を同定した。さらに,mRNAのスプライシングバリアントを生じる新規のイントロン領域における遺伝子多型も1種類同定した。続いてこれら5種類のCFTR遺伝子多型を同時に解析する方法を確立し,胆嚢疾患との関連性を解析した結果,遺伝子多型Xの保有率は,胆嚢疾患を有さない犬と比較し,胆泥症および胆嚢粘液嚢腫を有する犬において有意に高かった。胆泥症と胆嚢粘液嚢腫罹患犬の比較では,遺伝子多型Xの保有率に有意差は認められなかった。また培養細胞を用いた解析により,遺伝子多型Xによって生じるアミノ酸変異を有するCFTR蛋白は,塩素イオンチャネルとしての機能が低下していることが明らかとなった。以上の結果から,遺伝子多型XによるCFTRの塩素イオンチャネル機能の低下が,胆泥貯留や胆嚢粘液嚢腫の病態および発生に関与することが示唆された。一方,肝臓および膵臓の疾患については十分な解析に至らず,今後の課題として残った。
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