独自に樹立したイヌ口腔扁平上皮癌細胞株を用いて、主にその浸潤・転移メカニズムに焦点を当てそれらの一端を解明することに成功した。 2020~2022年度にかけては、イヌ口腔扁平上皮癌において発現低下するmiRNAを複数種類同定し、それらの標的遺伝子のなかで上皮間葉転換に関連するものを特定した。具体的にはmiR-145はFascin1を、miR-203はSLUGを標的として扁平上皮癌細胞の遊走・浸潤を抑制していることが明らかとなった。また、免疫組織化学によりFascin1とSLUGはイヌ口腔扁平上皮癌組織において高発現していることも併せて明らかにした。これらの成果は、Vet Comp Oncol誌(2022年)、Oral Dis誌(2023年)、およびFront Vet Sci誌(2023年)にそれぞれ発表した。特に、Vet Comp Oncol誌に掲載された論文は2022~2023年の同誌のTop cited articleに選出された。 2023年度においては、イヌ口腔扁平上皮癌細胞の遊走・浸潤と炎症との関連に着目し、代表的な炎症性サイトカインのひとつであるInterleukin-6(IL-6)の機能解析を行った。IL-6は扁桃扁平上皮癌細胞に対してMAPKとJAK/STAT3シグナルを活性化することで生存・遊走・浸潤に関与していることが明らかとなった。またIL-6/MAPKシグナリングカスケードの活性化はFascin1の発現増加にもかかわっていることが明らかとなった。この成果は現在Res Vet Sci誌に投稿中である。
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