研究課題/領域番号 |
20K06437
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
山崎 純 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (50230397)
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研究分担者 |
岡村 和彦 福岡歯科大学, 口腔歯学部, 准教授 (00224056)
内田 邦敏 静岡県立大学, 食品栄養科学部, 准教授 (20581135)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | TRPチャネル / ヒアルロン酸 / がんスフェロイド / アポトーシス / 細胞浸潤 |
研究実績の概要 |
正常細胞は細胞外基質(ECM)との接着を失ったときにアポトーシスになるが、それに対して抵抗性を持つことはがん細胞が転移能をもつことに繋がる。これまでに遊走能や浸潤能を高める因子としてのヒアルロン酸(HA)の役割や、HAのTRPチャネル活性への関与が示唆されてきた。以上の知見を踏まえて、がんスフェロイド形成とアポトーシス回避に寄与するHAとTRPチャネルの関与を明らかにすることが本研究の目的である。イヌならびにヒト乳がん細胞において、poly-(2-hydroxyethyl methacrylate) (poly-HEMA)コート培養ディッシュ上ではECMとの接着を失う一方、スフェロイドの形成によってアポトーシスからの回避が認められた。スフェロイド形成で増加するTRPチャネルを検索したところTRPV1やTRPV6などの候補が得られた。 本助成事業の補助によって構築した細胞内Caイメージングシステムを用いて、イヌTRPV1チャネルを強制発現したHEK293細胞におけるチャネル活性化のHAによる作用を調べたところ、チャネル刺激薬による細胞内Ca濃度の増加は高分子HAによって抑制されることが明らかになった。また、poly-HEMAディッシュ上のヒト乳がん細胞ではHA分泌が増加しTRPV6発現が増加したが、HA合成阻害薬によってTRPV6発現が減少し、アポトーシスが惹起されることが明らかになった。他方、乳がん細胞を真皮モデルに播種してがん浸潤プロセスを再現する3次元実験系を構築した。悪性度が異なる細胞を比較したところ、浸潤距離の差とHA合成阻害薬による抑制が認められた。以上の研究成果をさらに展開して、HAとTRPチャネルの相互作用の違いをもとにして、がんスフェロイド形成とアポトーシス耐性能ががん細胞種で異なる現象を明らかにし、浸潤を抑制するがん薬物療法を探索する取組みを進めていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
がん細胞がアポトーシスを回避する戦略の1つにスフェロイド形成があり、イヌ乳腺腫瘍ではヒアルロン酸(HA)が細胞集団の形成に寄与することが明らかになっている。HA とTRPチャネルの関連性を示す知見を踏まえて、先ずがんスフェロイド形成とアポトーシス回避に寄与するHAとTRPチャネルの関与を明らかにすることが本研究の目的である。 本年度は、poly-(2-hydroxyethyl methacrylate) (poly-HEMA)コート培養ディッシュ上でアポトーシスから回避したイヌ(AZAC-Bなど)ならびにヒト乳がん細胞(MCF-7, MDA-MB-231など)で増加するTRPチャネルを検索したところ、TRPV1やTRPV6などの候補が得られた。 イヌTRPV1チャネルのPCRクローニングによって発現ベクターを作成した上で、強制発現HEK293細胞を用いてチャネル活性化のHAによる作用を調べた。本助成事業の補助によって構築した細胞内Caイメージングシステムを用いて、TRPV1チャネル刺激薬(カプサイシン)による細胞内Ca濃度の増加は高分子(平均1MDa)HAによって抑制されることが明らかになった。 また、poly-HEMAディッシュ上のヒト乳がん細胞ではHA分泌が増加しTRPV6発現が増加したが、HA合成阻害薬4-methylunbelliferoneによってTRPV6発現が減少し、アポトーシスが惹起されることが明らかになった。 他方、乳がん細胞を真皮モデルに播種して細胞集団が浸潤するプロセスを再現する3次元実験系を作成した。悪性度が異なるMCF-7とMDA-MB-231を比較したところ、MDA-MB-231の方が長い浸潤距離を示し、HA合成阻害薬によって抑制されることが明らかになった。現在、がん細胞の浸潤におけるHAの影響に対するTRPVチャネルの役割を検討している。
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今後の研究の推進方策 |
正常細胞は細胞外基質(ECM)との接着を失ったときにアポトーシスになるが、それに対して抵抗性を持つことはがん細胞が転移能をもつ理由の一つである。これまでに遊走能や浸潤能を高める因子としてヒアルロン酸(HA)の役割が示唆されてきた。また、近年HAの TRPチャネル活性への関与が報告されている。以上の知見を踏まえて、次年度からは細胞内Caイメージングに加えてwhole-cell パッチクランプ法によるHA産生とTRPV1活性との機能的連関について検討を進め、高分子HAによる反応に加えて、機能が異なるとされる低分子(平均数十kDa)HAの効果についても検討を加える。 さらに、poly-HEMAコート培養ディッシュ(がんスフェロイドの形成)や3次元真皮モデル(がん細胞集団の浸潤能)を活用して、アポトーシスから回避する機構としてのHAとTRPチャネルの相互作用を明らかにする予定である。また、これらの相互作用の違いをもとにして、がんスフェロイドの形成とアポトーシス耐性能ががん細胞種で異なる現象を明らかにしていく。TRPの活性化薬・阻害薬投与によって、HA接着が寄与するスフェロイド形成が抑制されアポトーシスを惹起できるか否かの検討を通じて、浸潤能を抑制するがん薬物療法を探索する取組みとして継続していきたい。
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