研究課題/領域番号 |
20K06438
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研究機関 | 日本獣医生命科学大学 |
研究代表者 |
佐藤 稲子 日本獣医生命科学大学, 獣医学部, 講師 (70633478)
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研究分担者 |
片山 欣哉 日本獣医生命科学大学, 獣医学部, 准教授 (60344298)
田崎 弘之 日本獣医生命科学大学, 獣医学部, 教授 (80231405) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | エクソソーム / 犬横紋筋肉腫 / 5-oxoproline |
研究実績の概要 |
エクソソームは様々な細胞によって放出され、ほとんどの体液中に見られる細胞外膜小胞である。本研究では、本学で樹立された犬横紋筋肉腫細胞株(CMS-C)が分泌するエクソソームについて、培養条件の違いによるエクソソームの特性変化を明らかにし、さらに、特性が変化したエクソソームを犬正常骨格筋細胞に添加することで、正常細胞への影響を解析・評価する。 初年度の2020年度は安定したエクソソームの回収とその評価を確立し、2021年度は昨年度に引き続きCMS-Cを低密度、高密度で培養し、細胞とエクソソームの代謝産物の定量を続けた。その結果、細胞中では培養条件が異なっても有意差のなかったグルタチオン代謝経路の中間体である5-oxoprolineが、高密度細胞のエクソソームで有意に低値となることを明らかにした。そこで、グルタチオンから5-oxoprolineへの代謝に関連する酵素について,細胞内のmRNA発現量を調べたところ、高密度培養でCHAC1が増加する結果を得た。CHAC1は酸化ストレスでmRNAの発現量が増加する酵素であることが知られており、酸化ストレスによって、5-oxoprolineがエクソソーム中で増加するという仮説を現在のところ立てている。 また、miRNAのターゲット遺伝子のエンリッチメント解析の結果からは、高密度で増加するmiRNAのターゲットとしてがんの浸潤や転移に関連する遺伝子が、高密度で減少するmiRNAのターゲットとしてがんの抑制に関連する遺伝子が、それぞれエンリッチメントされていることが示された。これらの結果から、CMS-Cは細胞密度が高いほど浸潤や転移などに影響を及ぼすmiRNAを多く含むエクソソームを分泌していると考えられる。 この他、密度以外のインデューサー因子として、培地pHと培養中にヒートショックを与えることを併行して実施中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2021年度の計画は、複数の培養条件で得たエクソソーム中の二次元電気泳動によるプロテオーム解析と、GCMSによるメタボローム解析、miRNA解析を実施する予定であった。このうち、プロテオームについては、二次元電気泳動で分離後に、タンパク質を同定するまでには至らなかった。この理由としては、分析に必要なエクソソーム量を得ることが難しく、また、二次元電気泳動での分離の再現性が低いことが挙げられる。プロテオームについては、タンパク質の同定よりも、培養条件を変更したときに現れるエクソソームタンパク質のプロファイルの変化を把握する方向に実験計画を見直している。 GCMSによるメタボロームについては、密度の違いによってアミノ酸のプロファイルが異なることを明らかにし、計画通りの進捗であった。 miRNA解析については、ある程度エクソソーム冷凍サンプルの数が揃ったところで、委託分析を計画しているため、2021年度は実施しなかった。
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今後の研究の推進方策 |
まずは次の3項目を実施する。(1)高密度培養がCMS-Cにとって酸化ストレス状態であったことを確認するために、過酸化水素を培地に添加後に、細胞とエクソソームを回収し、エクソソーム中の5-oxoproline濃度が酸化ストレスによって低値になるという仮説を検証する。(2)CMS-Cを培養中にヒートショックを与えたときの、細胞とエクソソームの代謝産物、タンパク質のプロファイルの変動を分析する。(3)pHの異なる培地でCMS-Cを培養し、(2)と同様の分析、解析を実施する。また、(1)~(3)のエクソソームサンプルについて、miRNA解析を実施する。 次に、正常骨格筋細胞に(1)~(3)で得たエクソソームを添加し、正常骨格筋細胞について、代謝解析とプロテオーム解析、mRNA(主として腫瘍を促進させる因子を中心とした遺伝子をターゲットとする)の解析を実施し、培養条件によるエクソソームの特性変化による正常細胞への影響を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
miRNA解析をある程度エクソソーム冷凍サンプルの数が揃ったところで、委託分析を計画しているため、2021年度の予算を繰越し、2022年度に計上することにした。
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