これまでにMERS-CoVの中東株とアフリカ株のウイルス複製、中和反応性の差について、スパイク(S)タンパク質配列における決定基を検索するべく研究を行ってきた。アフリカ株としてエチオピアのヒトコブラクダの鼻水から解読したcamel/MERS/Amibara/118/2017(GenBank MK564474)、中東株としてEMC株(同 JX869059)を利用し、キメラSタンパク質、あるいは点変異導入Sタンパク質を持つ組換えウイルスを作製し、ウイルス複製、中和反応の解析を行った。中和反応性の違いについては、Sタンパク質の受容体結合部位(RBD)に存在する2点の変異をエチオピア株とEMC株の間で入れ替えることで、中和反応性の違いを入れかえられることが判明した。一方で、ウイルス複製についてはS1、S2領域をそれぞれ入れ替えたキメラで複製が入れ替わらず、共にウイルス複製が減少することが判明した。従ってウイルス複製をもたらす変異は受容体結合に関するS1領域、ウイルス構造変化に関わるS2領域のどちらかに存在するわけではなく、S1、S2に存在する変異が総合して関係することが明らかとなった。構造の推定から、シアル酸との結合に関係すると言われるS1領域のN-terminalにおける変異群と、S2に存在するコネクタードメインの変異がウイルス複製に関連する可能性が考えられる。これらの点変異を1つずつ導入した詳細な解析が要求されるが、予算、エフォートの点で不可能であった。
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