着床前胚の環境が発生率や産仔率に影響するだけでなく生活習慣病などの将来の疾患リスクになることが明らかになりつつあるが、その全体像や詳細な機構は不明である。本研究課題の目的は、着床前胚の代謝、エピジェネティクスおよび細胞内シグナルと生活習慣病との関連に着目し、着床前胚の細胞生理学的撹乱が胚の発生および将来個体の健康に及ぼす影響を明らかにすることである。3年目の令和4年度は、着床前胚の環境が2型糖尿病を含む生活習慣病を引き起こす細胞内攪乱について、核小体に着目して解析を行った。研究代表者はこれまでマウス着床前胚を体内受精後の2細胞期から桑実期までalpha MEM培地で48時間体外培養することで成体において2型糖尿病を発症することを明らかにしている。本研究では、alpha MEM培地で培養して得られた胚盤胞が通常の培地と異なり、核小体の形態およびNOPP140などの核小体の分子マーカーの染色パターンが異常であることを見出した。また、通常の体外受精した胚においても一部の胚が同様の核小体異常を示す結果を得た。 本研究課題を3年間にわたり、(1)グルコース代謝の一つであるヘキソサミン生合成経路に依存したN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)の翻訳後修飾、(2)小胞体ストレス、(3)alpha MEM培地の暴露に着目し、着床前胚の体外環境(体外受精や体外培養)における発生能および長期影響について研究を行ってきた。研究を通じて、特に小胞体ストレスが一定の糖代謝異常など長期影響を引き起こす可能性が示唆されたこと、体外受精や体外培養が胚の核小体に影響することを明らかにすることができた。核小体はリボソーム合成の場であり、細胞外環境の影響を受けることが知られている重要な細胞小器官である。これらの発見は、今後長期影響の分子メカニズムを解明していく上で重要な手がかりになると考えられる。
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