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2021 年度 実施状況報告書

哺乳動物の冬眠に特異的な遺伝子発現制御による末梢組織の低温耐性メカニズムの解明

研究課題

研究課題/領域番号 20K06447
研究機関北里大学

研究代表者

塚本 大輔  北里大学, 理学部, 助教 (50598836)

研究期間 (年度) 2020-04-01 – 2023-03-31
キーワード冬眠 / 遺伝子発現制御 / 体温変動 / 肝臓 / シマリス
研究実績の概要

「研究の背景」
哺乳動物の冬眠は、冬眠動物に特異的な遺伝子が現在でも見つかっていないことからも、哺乳動物に共通の遺伝子の発現や機能などを冬眠用に調整することにより行われていると考えられている。申請者はこれまで、小型冬眠哺乳動物シマリスの肝臓における遺伝子の発現制御機構に着目し、冬眠期の転写調節には、非冬眠期と同様、ヒストン修飾の制御が関与していることや概日性の転写因子 HSF1 の活性が冬眠-中途覚醒サイクルに伴って制御されていることを明らかにしてきた。
「研究の目的」
本研究では、冬眠期の遺伝子発現は、冬眠-中途覚醒の体温変動を利用して非冬眠期の概日性の遺伝子発現制御機構を再調整することで制御されているというモデルを検証し、肝臓が低温で健全な状態を保つ分子機構の解明を目指している。
「研究実績」
昨年度は、冬眠の体温低下に伴って発現が増加する低温ショック RNA 結合タンパク質 Rbm3 の発現制御機構の一端を明らかにし、かつリファレンスデータが無いシマリスにおいて RNA-seq 解析の一部のデータを利用してデータ解析環境を構築することができた。当該年度では、①非冬眠期の活動時と休息時、冬眠期の深冬眠時と中途覚醒時のそれぞれ各3個体ずつの RNA-seq 解析のシーケンス結果が全て得られたため、全データを用いて発現変動遺伝子を検出した。その結果、非冬眠期における発現変動遺伝子数よりも、冬眠期における発現変動遺伝子数が多いことなどが明らかになったが、両者において共通の特徴的な遺伝子群の存在はまだ同定できていない。一方、②シマリス RNA-seq データ解析環境を応用し、シマリス microRNA-seq データの解析が可能になり、非冬眠期の活動時2個体と冬眠期の深冬眠時2個体の発現変動 microRNA を同定することを可能にした。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

実験動物であるシマリスの入手は可能になったが、飼育施設の移動に伴い、研究環境の整備に多少時間を要したが、大きく遅れたわけではない。さらに、テレメトリーシステムを用いてシマリスの体温変動をリアルタイムで測定し、冬眠期の適切な体温変動時にサンプリングを行う計画が、テレメトリーシステム機械の不具合により、1匹しかリアルタイムで測定できなくなったことも当初の計画と異なる状況になってしまった。一方、RNA-seq データを解析するバイオインフォマティクス環境が整ったことに加え、シマリスと同じリス科に属するジュウサンセンジリスのデータベースが今年度更新されたことで、網羅的な遺伝子解析環境はおおむね順調に進展していると考えている。

今後の研究の推進方策

冬眠期の低温耐性に関与する発現変動遺伝子群をより明らかにしていくため、以下の研究を行う。
① RNA-seq の主成分分析による解析結果から、シマリスの状態による発現遺伝子群の違いだけでなく、シマリスが野生動物であることから、個体差も大きいことが明らかになった。そこで、現時点でシマリスの状態毎に3個体ずつ解析しているシークエンスを、個体数を増やして解析を行い、より頑強な発現変動遺伝子を同定する。リス科のジュウサンセンジリスの場合は5個体で論文報告がされたので、シマリスでも5個体以上は必要であると考えている。② テレメトリー機器の不具合により、RNA-seq 解析に用いたいと考えていた深冬眠移行時のシマリスを予定していた数得られなかった。そこで今後は、深冬眠移行時のシマリスを優先的に確保するためにテレメトリーを用いる。得られたサンプルを含め、体温変動時の肝臓 total RNA-seq 解析を行い、体温上昇時あるいは低下時に共通して発現変動する遺伝子群などを明らかにする。そして、① の結果と組み合わせ、冬眠の低体温特異的に発現変動する遺伝子群を同定する。

一方、個別の遺伝子の発現制御機構についても明らかにしていくため、以下の研究を行う。
③ 冬眠期の深冬眠-中途覚醒サイクルにおける Rbm3 遺伝子の発現制御機構、および深冬眠時の Rbm3 の標的 RNA を網羅的解析結果を利用して探索し、その機能をエンリッチメント解析から推測する。④ 最終的に、本研究で明らかにできた肝臓の低温耐性に関与する可能性のある遺伝子を、シマリスや非冬眠哺乳動物マウスの初代培養肝細胞に過剰発現させ、低温培養下における細胞生存率を比較解析する。低温培養インキュベーターは初夏に納品される予定である。
これらの研究から、シマリスの肝臓における冬眠期に特異的な遺伝子発現制御機構と低温耐性メカニズムの解明を目指す。

次年度使用額が生じた理由

新型コロナの影響により、オランダへの国際学会参加発表を取りやめたり、北海道での国内学会参加発表がオンライン参加したりしたため、旅費の予算については当初の計画と変更が生じている。一方、トランスクリプトーム解析の費用として、翌年度分予算と合算して使用する計画であるため、今年度分を使い切ることを控えた。その他の次年度予算使用計画に大きな変更はない。

  • 研究成果

    (4件)

すべて 2021

すべて 雑誌論文 (1件) 学会発表 (3件)

  • [雑誌論文] 冬眠哺乳動物シマリスの体温変動を利用した冬眠期の遺伝子発現制御機構2021

    • 著者名/発表者名
      塚本 大輔、高松 信彦
    • 雑誌名

      生化学

      巻: 93 ページ: 830~834

    • DOI

      10.14952/SEIKAGAKU.2021.930830

  • [学会発表] 冬眠哺乳動物シマリスのmiR-182-5pによる時計遺伝子CLOCKの発現制御の解析2021

    • 著者名/発表者名
      関皓太、白畠由比穂、塚本大輔、伊藤道彦、高松信彦
    • 学会等名
      第44回日本分子生物学会年会
  • [学会発表] 冬眠哺乳動物シマリスのmiR-182-5pによるFOXO1の発現制御とFOXO1による GADD45Aの転写制御の解析2021

    • 著者名/発表者名
      白畠由比穂、関皓太、岡村瑠美、塚本大輔、伊藤道彦、高松信彦
    • 学会等名
      第44回日本分子生物学会年会
  • [学会発表] ツメガエル生殖巣形成におけるRSPO1リガンドによる雌化機構~生殖細胞を介した雌デフォルト説~2021

    • 著者名/発表者名
      佐久間恵吾、中西晋也、田村啓、林舜、荻田悠作、塚本大輔、高松信彦、伊藤道彦
    • 学会等名
      第45回日本皮革内分泌学会大会

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公開日: 2022-12-28  

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