「研究の背景」 哺乳類の冬眠は、冬眠哺乳動物に特異的な遺伝子やタンパク質が発見されていないことから、哺乳類に共通の遺伝子の発現や機能などを冬眠用に再調整することにより発動が制御されていると考えられている。申請者はこれまで、冬眠する小型哺乳類シマリスの肝臓における遺伝子の発現制御機構に着目し、冬眠期の転写調節には、非冬眠期と同様、ヒストン修飾の制御が関与していることや概日性の転写因子 HSF1 の活性が冬眠-中途覚醒サイクルに伴って制御されていることを明らかにしてきた。 「研究の目的」 本研究では、冬眠期の遺伝子発現は、冬眠-中途覚醒の体温変動を利用して非冬眠期の概日性の遺伝子発現制御機構を再調整することで制御されているというモデルを検証し、肝臓が低温で健全な状態を保つ分子機構の解明を目指してきた。 「研究実績」 研究期間を通じて、リファレンスデータが無いシマリスにおいて RNA-seq 解析のデータ解析環境を構築し、非冬眠期の活動時と休息時、冬眠期の深冬眠時と中途覚醒時のそれぞれ各3個体ずつ RNA-seq を行い、発現変動遺伝子の検出を試みることができた。しかし、野生動物シマリスは個体差が大きいせいなのか、同一状態と考えていたシマリス間でもバラつきが検出されたこともあり、データの信頼性を頑強なものにするため、追加で各3個体ずつの RNA-seq 解析を行った。現時点ではまだ特徴的な遺伝子群は同定できていないが、今後の研究に活用できる基盤ができたことは非常に意義があった。また、研究の成果として、非冬眠期の概日性の体温変動により活性が制御される HSF1 の機構を冬眠期においても利用することにより、時計遺伝子 Per2 の発現が中途覚醒時に一過性に活性化されることを明らかにした論文を1報発表した。他にも共著者として論文を2報発表し、著書を3報発表することができた。
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