研究課題/領域番号 |
20K06451
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
加藤 啓子 京都産業大学, 生命科学部, 教授 (90252684)
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研究分担者 |
藤田 明子 京都産業大学, 生命科学部, 研究員 (60535003) [辞退]
黒坂 光 京都産業大学, 生命科学部, 教授 (90186536)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | シアル酸転移酵素 / うつ・不安症 / てんかん / 共存症 / 代謝 / アルカリホスファターゼ / トリプトファン / 脂質 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,St3gal4が担当するシアル酸修飾から始まる,共存症・分子カスケードを見つけ,代謝変化を含む精神疾患の共存症発症機構を解明することである。具体的には,① St3gal4がシアル酸を修飾する受容体基質を同定し,中枢神経系と末梢組織における受容体基質の役割を明らかにする。② 脳と腸管の代謝変化を捉え,③ 代謝の変化に関わる律速酵素をmRNAレベルで探索する。①から③の取り組みにより,シアル酸化が調節する代謝変化と共存症発症機構を明らかにすることであり,本年度は,②に着目した。シアル酸転移酵素ST3Gal IVは,糖タンパク質の末端で,alpha2,3―シアル酸修飾に関与する。マウスでは,ST3Gal IVはてんかんとうつ,不安症といった精神疾患の発症を調節すると共に,炎症中の止血と白血球の動きを調節する。ゲノムワイド解析より,ヒトST3GAL4と血中アルカリホスファターゼ(ALP)が著しい相関を示す一方で,St3gal4欠損マウスも,血中ALP値の著しい増加を示し,さらに,脂質代謝変化とも相関を示していた。そこでSt3gal4欠損マウスの血中における代謝変化を解析した結果, ALPを中心とするSt3gal4血漿パラメーターが存在し,ALP,トリプトファン,コレステロールの変化がマウスの脂質代謝と強い相関を示すことがわかった。本研究結果について,原著論文に発表する準備が進んでおり,精神疾患,炎症,腫瘍形成に関わる,St3gal4を中心とした代謝ネットワークの解明を目指すプラットフォームの構築に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は,St3gal4が担当するシアル酸修飾から始まる,共存症・分子カスケー ドを見つけ,代謝変化を含む精神疾患の共存症発症機構を解明することである。具体的には,① St3gal4がシアル酸を修飾する受容体基質を同定し,中枢神経系と末梢組織における受容体基質の役割を明らかにする。② 脳と腸管の代謝変化を捉え,③ 代謝の変化に関わる律速酵素をmRNAレベルで探索する。①から③の取り組みにより,シアル酸化が調節する代謝変化と共存症発症機構を明らかにすることである。 本年度は,②に着目し,St3gal4欠損マウスにおける,うつ,不安症に相関した変化を示す尿中揮発性有機化合物と血中の代謝産物の変化をとらえた。結果,てんかんマウスとSt3gal4欠損マウスの尿中及び血中で変化を示す代謝産物を元に,てんかんからうつ不安症に関わる代謝マップの作成に成功した。その結果を論文に発表する準備が進んでいると共に,次年度に計画する①の実施準備に取りかかっているところである。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は,① St3gal4がシアル酸を修飾する受容体基質を同定し,中枢神経系と末梢組織における受容体基質の役割を明らかにするための実験系の構築を目指す。具体的には,以下の2点について検討する。 (1) アジド糖ManNAz・ダブルクリック反応による検出系を利用する。具体的には,ManNAzを視床内側膝状体に3日間微量注入し脳スライスを作る(腸管では腹腔内に注入し,同様に進める)。内側膝状体を切り出したんぱく質の粗精製後,ManNAzのアジド基とビオチンのアルキン基を共有結合させる(クリック反応)。アビジン樹脂(磁石)にて糖たんぱく質を精製し,SDS-PAGEとウエスタンブロティングにより,シアル酸化糖タンパク質を検出する。 (2) シアル酸転移酵素が持つシアリルモチーフLがCMP-シアル酸と結合し,Sが受容体基質とCMP-シアル酸の結合に関わる。ビオチンリガーゼと融合させたSt3gal4は,CMP-シアル酸存在下で,一時的に相互作用した糖タンパク質をビオチン化する(BioID法)。アビジン樹脂(磁石)にて糖たんぱく質を精製後,SDS-PAGEとウエスタンブロティングにより,シアル酸化糖タンパク質を検出する。(1)と(2)が成功したのち,検出した糖タンパク質を質量分析器により同定する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題は,シアル酸転移酵素(ST3Gal IV)が,どのようにてんかん~うつ・不安症といった精神疾患の誘導と代謝変化に関与するのかを明らかにするため,ST3Gal IVによりシアル酸修飾を受ける糖タンパク質を探索することを目指している。しかし,2020年度に入り,想定以上に新型コロナウイルスの影響を受け,研究補助を要する人員の活動に制限があり,研究遂行に不可欠なモデルマウスの作出が滞ったことから,実験に利用できるマウスが不足する状況に陥ってしまった。 その一方で,所属機関では,2020年9月以降,十分に研究活動を実施することができる体制が整ってきたことから,当初の予定より人員を増加させることで,急ぎマウスの作出を行い,研究を推進する必要があるため,前倒し支払請求することとなった。 上述の理由により,急いでマウスの作出に着手した結果,予定より早くマウスの生産に成功し,実験を遂行することができた。その結果,本年度の使用額が予想額を下回ったため,余った予算を次年度使用に移行した。2021年度予算に移行した後は,【今後の研究の推進方策】に示した研究を遂行するために必要となるマウスを作出するための人員活動に利用する。
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備考 |
京都産業大学 教員紹介 http://www.kyoto-su.ac.jp/faculty/professors/ls/kato-keiko.html
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