研究課題/領域番号 |
20K06460
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
大野 民生 名古屋大学, 医学系研究科, 准教授 (90293620)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 膜様条虫 / 糖尿病モデルマウス / GLP1分泌 / インスリン分泌 / 寄生蠕虫療法 |
研究実績の概要 |
研究代表者は糖尿病モデル動物に腸管に寄生するサナダ虫の一種である膜様条虫を感染させると、高血糖が正常化するという現象を見出した。この高血糖正常化は、膜様条虫が宿主の免疫修飾(調節)作用を介さずに、腸管細胞のGLP1分泌亢進または腸管内での短鎖脂肪酸産生促進を誘導しインスリン分泌を亢進させるためと想定し、本年度は以下の解析を実施した。(1)腸管細胞のGLP1分泌亢進について:研究代表者が独自に育成した持続的高血糖を示す2型糖尿病マウス(NSY-Ay)系統を用いて、Glp1r遺伝子のエクソン4と5を欠失した系統(NSY-Ay-Glp1r・KO)を樹立した。このマウスとその対照となるNSY-Ay系統が高血糖を発症した段階で膜様条虫を感染させ、感染群と非感染群で血糖値の推移を比較した。まだ解析個体数が少ないため確定的な事は言えないが、B6Jマウスと同様にNSY-Ay系統においても、GLP1受容体を欠失させても感染群では非感染群と比較して血糖値が低下する傾向があった。しかし、血糖値の低下幅はNSY-Ay系統よりNSY-Ay-Glp1r・KO系統の方が小さく、GLP1は膜様条虫感染による血糖降下作用に一定の役割を有していると推定された。(2)腸管内での短鎖脂肪酸産生促進について:短鎖脂肪酸受容体(FFAR2)欠損マウスを入手し、STZを投与して高血糖を発症させた後に膜様条虫を感染させ、感染群と非感染群で血糖値の推移を比較したところ、膜様条虫の感染群では非感染群より劇的に血糖値が低下した。したがって、膜様条虫感染による血糖降下作用の主因はFFAR2を介した機構ではないと考えられ、膜様条虫の寄生により短鎖脂肪酸産生促進が起きて血糖値が低下している可能性は低いと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
想定外の解析結果が出たため、研究代表者が新たに樹立した持続的高血糖を示すNSY-Ay系統においてもGlp1r遺伝子の欠失マウスを作製する必要が生じた。この系統は樹立には成功したが繁殖性が極めて低く実験実施が遅れている。更に、研究代表者は秋以降体調不良により4度の入退院を繰り返した。したがって、研究は当初の想定より少し遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの解析より、GLP1は膜様条虫感染時の血糖降下作用に一定の役割を果たしているが中心的な役割を担っていないと考えられた。更に、GLP1以外に膜様条虫の血糖降下作用に関与すると推定された短鎖脂肪酸については、ほとんど関与していない可能性が高いと考えられた。すなわち、膜様条虫の血糖降下作用には、当初の想定以外の機構があると考えられたため、これまでの実験結果を再検証した。その結果、B6JやB6J-Glp1r・KOマウスの解析において、感染群の肝臓は非感染群より外見上色がうすく見える傾向があった事や、これまで感染実験を実施した全ての系統で感染群の肝臓が非感染群より少し大きくなっていた事に着目した。膜様条虫はこれまで宿主には病態を引き起こさないと考えられていたが、肝臓に軽度の障害を与えその影響で血糖値が低下する可能性があると推定された。今後は以下の2つの点から解析を行う。1)これまでの解析で採取した血中サンプルを用いてASTやALT等の血中濃度を測定して感染群と非感染群で肝機能を比較すると同時に、B6J系統において感染群と非感染群で肝臓の病理学的検査を実施する事で、膜様条虫の感染が肝機能に影響を与えているかどうかを検証する。2)前年度開始したNSY-Ay-Glp1r・KOとNSY-Ay系統における膜様条虫の感染群と非感染群での血糖値の比較実験を継続して実施し、GLP1が膜様条虫の血糖降下作用にどの程度関与しているかを検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者が新たに樹立した持続的高血糖を示すNSY-Ay系統においてもGlp1r遺伝子の欠失マウスを作製し解析する必要が生じた。しかし、このマウスは繁殖不良のため実験個体が十分に確保できず、本年度内に膜様条虫の感染実験が完了しなかった。また、膜様条虫の血糖降下作用は当初の想定とは全く異なり感染が肝機能に影響を与えるためと推定されたが、研究代表者の体調不良によりその解析が実施できなかった。これらの理由で、次年度使用額が生じた。その次年度使用額は、本年度実施できなかった解析の実施ために次年度に使用する。
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