本研究ではマウスの膜様条虫(Hymenolepis microstoma: Hm)感染時に高血糖が正常化する機構の解明を目的とした。具体的には、GLP1(glucagon like peptide 1)と短鎖脂肪酸を膜様条虫の高血糖正常化現象に関与する重要な候補分子と考え、これら分子の関与について遺伝子改変マウスを用いて解析した。短鎖脂肪酸受容体(FFAR2)欠損マウスにSTZを投与して高血糖を誘導した後にHm感染したときの血糖の低下率は、同じ処置を行った正常マウスと差がなかった。更に、STZにより高血糖を誘導したマウスにHmを感染させた後、抗生剤を用いて腸内細菌を激減させても抗生剤を投与しなかったマウスと同様に血糖値が低下した。したがって、高血糖の正常化に腸内細菌やそれらが産生する短鎖脂肪酸は関与していない事が判明した。一方、STZ投与で高血糖を誘発させたGLP1R欠損マウス(B6J-Glp1r・KO)と高血糖を自然発症するGLP1R欠損マウス(NSY-Ay-Glp1r・KO)を用いた解析では、何れも欠損マウスでは正常マウスよりHm感染後の血糖値の低下が抑制されたことから、高血糖の正常化にはGLP1シグナルの活性化が関与している事が判明した。しかし、GLP1シグナルが欠損していてもHm感染により高血糖が正常化することから、GLP1シグナル以外の血糖降下因子の関与が示唆された。その因子を探索するためにHm感染マウスの病態解析を行った結果、感染マウスは軽度の肝炎を発症していたHm感染は肝炎を誘発することが高血糖の正常化に関与している可能性が考えられた。
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