研究課題/領域番号 |
20K06461
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
田中 美有 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 特任助教 (00756893)
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研究分担者 |
桑村 充 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 教授 (20244668)
庫本 高志 東京農業大学, 農学部, 教授 (20311409)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 神経軸索ジストロフィー / 神経変性疾患 / 疾患モデル / ラット / 病理学 |
研究実績の概要 |
神経軸索ジストロフィー(Neuroaxonal dystrophy: NAD)は、根治療法のない、まれな神経変性疾患であり、治療法の確立に向けて詳細な病態解明が課題となっている。本研究では、若齢時から後肢の歩行異常・運動失調を呈し、病理組織学的にNADと診断されたミュータント系統であるKKラットに着目した。本研究の目的は、新規のNADモデル動物であるKKラットを疾患モデルラットとして用いることで、NADの新たな病態メカニズムを解明することである。本年度の実績は以下のとおりである。 実験① kk遺伝子がKKラットの真の責任遺伝子であることの立証:CRISPR/Cas9法によって、KKラットホモ型のkk遺伝子変異を野生型ラット(F344系統)のkk遺伝子にノックインした(先端モデル動物支援プラットフォーム「モデル動物作製支援」プログラム)。その結果、kk変異を有するノックインラットのファウンダーを4匹得ることができた。 実験② KKラットの詳細な病理組織学的解析:KKラットでは、神経系以外に脾臓・胸腺においても肉眼的に異常が確認されたため、経時的な病理組織学的解析を行った。その結果、脾臓の腫大、うっ血および白脾髄の萎縮と、胸腺皮質の萎縮を認めた。さらに、リンパ球マーカーなどを用いた免疫染色やアポトーシスの解析などを実施中である。 実験③ KKラットにおける、オートファジー・軸索輸送関連因子の発現動態の解析:脊髄と脾臓の一部の週齢についてはRNA-seq解析の実施およびデータ解析に着手した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
実験②については、KKラットの造血器の病変について、脾臓・胸腺を中心として、詳細な病理組織学的検索を進めることができ、新たな知見を得つつある。しかし、実験①・③については、以下の理由により、当初の計画よりも実験の進行がやや遅れている。 実験①:ファウンダーラットの取得までに予定よりも時間を要したため(年度内にファウンダーラットからF1ラットを得る段階まで進むことを想定していた)。 実験③:前所属機関にて検体採取および保管をしていた、RNAや蛋白などの検体を現所属機関へ移動するまでに時間を要し、実験への着手が遅れたため(当初予定していた全ての検体のRNA-seq解析を完了するに至らなかった)。
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今後の研究の推進方策 |
実験① kk遺伝子がKKラットの真の責任遺伝子であることの立証:得られたファウンダーラットと野生型ラットの交配によって次世代(F1)ラットを得る。kk変異をヘテロで有するF1ラット同士の交配により、目的のkk遺伝子変異をホモで有するF2ラットを得て、その表現型(体重変化、後肢の歩行異常などの症状、神経病理組織学的異常など)を経時的に評価し、KK ラットと同様の表現型が認められるかどうかを検討する。 実験② KKラットの詳細な病理組織学的解析:中枢神経系病変について、軸索やシナプスの異常を電子顕微鏡観察や免疫組織化学染色によってより詳細に検索する。 実験③ KKラットにおける、オートファジー・軸索輸送関連因子の発現動態の解析:対象検体のRNA-seq解析を完了してデータ解析を進め、オートファジーや軸索輸送に関連する遺伝子の発現異常の有無について検索する。 さらに、kk遺伝子がコードする蛋白の全身臓器における発現動態の解析にも着手する予定にしている。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由:2020年度中には、kk変異を有するノックインラットのファウンダーを搬入し繁殖を開始する段階まで至らず、その搬入や繁殖のための飼育費用などが不要となったため。また、一部の検体のRNA-seq解析が未実施であるため。 次年度使用額の使用計画:目的のノックインラットを得るための交配やその後の系統維持に必要となる動物飼育費用および追加のRNA-seq解析に必要な経費を中心に執行する予定である。
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