研究課題/領域番号 |
20K06465
|
研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
大隈 和 国立感染症研究所, 血液・安全性研究部, 室長 (80315085)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | HTLV-1 / STLV-1 / VSV / ハイリスクキャリア / 治療法 / ニホンザル |
研究実績の概要 |
ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)は感染者(キャリア)の一部から成人T細胞白血病(ATL)、HTLV-1関連脊髄症(HAM)等の種々の関連疾患を発症させる。特にATLやHAMは重篤で、治療法はあるものの未だに難治性である。また発症前では検査でキャリアと診断されても治療法がないことから、発症リスクの高い「ハイリスクキャリア」に対し積極的な治療介入ができない。そのためハイリスクキャリアに対する発症予防治療薬の開発は急務である。 そこで我々はこれまで、HTLV-1プロウイルス量(PVL)が高いために発症リスクが高いハイリスクキャリアに対し、プロウイルスが潜む感染細胞を死滅させることにより、PVLを減少させて発症リスクが低減可能な感染治療・発症予防薬の開発を進めてきた。薬剤候補として、細胞溶解性ウイルスとして知られている水疱性口内炎ウイルス(VSV)を用いて、HTLV-1感染細胞に特異的に感染後死滅させる「組換えVSV(rVSV)」を創製し、細胞株・マウスモデルにおいて殺細胞効果によるPVL減少(治療効果)等を確認した。 本研究では、この開発推進のため、前臨床試験に重要な「サル感染モデル・薬剤評価系」を、HTLV-1に近縁のサルT細胞白血病ウイルス1型(STLV-1)の自然感染ニホンザルを用いて構築後、この系でSTLV-1に対するrVSVの実効性を検証する。本年度はニホンザルSTLV-1受容体候補(ニホンザルGLUT1)をニホンザル細胞からクローニングし、この分子を発現するrVSVを本研究の薬剤候補として作製した。このrVSVがin vitroにおいてニホンザルSTLV-1エンベロープタンパク質発現細胞に対して特異的な感染や殺細胞効果を示すことを確認した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は3年間を通して、ニホンザルSTLV-1受容体を発現するrVSVの作製とこのrVSVのin vitro検証実験、またSTLV-1感染ニホンザルを用いた霊長類感染モデル・薬剤評価系の構築とこのモデルを用いたrVSVのin vivo検証実験(前臨床試験)を行い、「rVSVの有用性」を明らかにすることを計画している。 1年目として本年度は、ニホンザルSTLV-1エンベロープタンパク質(Env)発現細胞に対するrVSVの薬効評価を行うこととした。HTLV-1受容体(ヒトGLUT1或いはNRP1)を発現するrVSVがニホンザルSTLV-1 Env発現細胞に感染することは既に確認済みであるので(2019年度日本HTLV-1学会、2019年度日本ウイルス学会で発表)、次の段階としてニホンザルSTLV-1受容体候補(ニホンザルGLUT1或いはNRP1)をニホンザル細胞からクローニングし、この分子を発現するrVSVを本研究の薬剤候補として作製する、またこのrVSVがin vitroにおいてニホンザルSTLV-1 Env発現(感染)細胞に対して特異的な感染や殺細胞効果を示すか等を、各々蛍光抗体法や生細胞数測定等により検証することを計画した。これらの予定がおおむね達成できたので、当該区分とした。
|
今後の研究の推進方策 |
当初の予定通り、以下の各年度の研究計画・方法に沿って進める。 2年目は、STLV-1感染ニホンザルの解析と薬剤評価に適した感染ザル個体の選別を行う。京都大学霊長類研究所の実験用ニホンザルについて、STLV-1抗体価を粒子凝集法により解析し、STLV-1感染ニホンザルを既に同定した。このニホンザル十頭程を用いて、rVSVの標的となるSTLV-1の潜伏組織・リザーバー確認のために、各種臓器(リンパ系臓器、骨髄、末梢血等)における定量PCRによるPVL測定や遺伝子・蛋白質レベルでのEnvの発現解析等を行い、基礎データを収集する。そのデータを基に、rVSVの評価等に適した感染ザル個体を選別する。 3年目(最終年度)は、STLV-1感染ニホンザルにおける本薬剤候補の有用性の評価を行う。健常ザル数頭を用いて、安全性及び薬物動態試験を指標にしたrVSVの至適投与量の決定等を行う。その後、薬剤評価用に選別されたSTLV-1感染ニホンザル数頭を用いて、適当な臓器におけるrVSVの治療効果等を、STLV-1のPVLや感染細胞数等を指標にそれぞれ定量PCRやフローサイトメトリー解析等により(経時的に)検証評価し、rVSVの有用性を明らかにする。
|