研究課題
我々はジフテリア毒素(DT)を投与することにより任意の時期に内耳外有毛細胞(OHC)を破壊可能なPrestin-hDTRマウスを開発し、OHC破壊前、破壊7日後および35日後の内耳蝸牛における遺伝子発現変動をマイクロアレイ解析により網羅的に比較した。その結果、OHCの破壊7日後にはOHCに特徴的な遺伝子群の発現は消失あるいは著しく減少するが、破壊35日後にはその一部の遺伝子の発現の上昇が認められることから、これまで自発的に再生することはないとされていたOHCが自発的に再生している可能性のあることが示唆された。本研究では、OHCの再生の可能性を探り、そのメカニズムを解明することを目的として行った。細胞の再生過程は、その細胞の分化・成熟過程を辿ると考えられることから、コルチ器の形成期にOHCを破壊した場合の遺伝子発現変動をRNA-seq解析により詳細に調査し、OHCの形成に重要な役割を担う遺伝子の同定を試みた。その結果、OHCの成熟に関与すると考えられる破壊後に発現が顕著に減少する遺伝子としてAgr3を同定した。抗AGR3抗体を用いた免疫組織学解析により、AGR3はOHCの支持細胞であるダイテルス細胞に発現することが明らかとなった。この結果は、OHCの形成にダイテルス細胞が密接に関わっていることを裏付けるものであった。一方、OHCの分化には、Notch情報伝達系およびWnt情報伝達系が重要とされていることから、OHC再生に対するWntシグナル阻害剤であるRPI-724の効果をinvivoで検証した。Prestin-hDTRマウスにDTを投与してOHCを破壊したマウスにRPI-724を週3回12週間腹腔投与を行った結果、聴力の改善傾向が認められ、Wntシグナルの阻害が難聴治療に有効であることが示唆された。
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Biomedicines
巻: 10 ページ: 2221
10.3390/biomedicines10092221
https://www.igakuken.or.jp/mammal/