研究課題/領域番号 |
20K06467
|
研究機関 | 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター |
研究代表者 |
井上 由紀子 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所 疾病研究第六部, リサーチフェロー (30611777)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | オキシトシン受容体 / ゲノム編集 / ノックインマウス |
研究実績の概要 |
脳内の神経伝達物質として働くオキシトシンは、その受容体を発現する神経細胞の機能を修飾し、養育行動・夫婦や家族の絆・他者への信頼などの「社会性行動」を促進的に制御するとともに、抗不安作用・抗ストレス作用も有する。オキシトシン系神経回路の入出力は極めて複雑であり、既存の抗体やノックインマウスを用いて、オキシトシン受容体の神経細胞内での詳細な局在(細胞体にあるのか、軸索にあるのか、樹状突起にあるのか)を区別することはできず、個々の神経回路を描出するには不十分である。本研究では、ゲノム編集により下記の新たなノックインマウスを作出し、オキシトシン受容体の神経細胞内局在を今までにない精度で「可視化」するとともに、光遺伝学等を用いた神経回路「操作」による機能解析を加速することにより、社会性行動を制御する神経回路網への理解を深めることを目的とする。 (1) オキシトシン受容体はGタンパク質共役型受容体に属する。高脂溶性のため、一般的にこれらを認識する抗体を作製することは難しく、脳組織切片上でオキシトシン受容体の局在を観察しうる良好な抗体が未だ得られていない。そこで、受容体タンパク質のC末端にエピトープタグを付加し、タグに対する抗体を用いて受容体を検出することができるノックインマウスをゲノム編集により作出した。超解像度顕微鏡により、オキシトシン受容体が細胞体および神経突起の膜上に存在することを初めて実際に撮影した。 (2) オキシトシン受容体を発現する神経細胞から成る神経回路を可視化・操作するには、Cre組換え酵素を発現できるノックインマウスが必須であるため、オキシトシン受容体遺伝子座にCreあるいはCreERT2をノックインしたマウスをゲノム編集により作出し、ウイルスベクター投与およびCreレポーターマウスとの交配により、その正確性と実用性を確認した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
オキシトシン受容体を発現する神経細胞を「可視化」「操作」するためのツールとして、4種の新規ノックインマウスをゲノム編集によって作出し、その有用性について米国神経科学会オンラインジャーナルに論文を発表した。これらのツールを研究者コミュニティで広く活用してもらえるよう、理研バイオリソースセンターへ寄託した。
|
今後の研究の推進方策 |
当初の計画として、既存のCreレポーターマウス(Ai9)をゲノム編集により改変し、本研究で作製済みのCreマウス・CreERT2マウスと交配することにより、オキシトシン受容体を発現する神経細胞の神経突起をより明瞭に観察することを目指している。Ai9のゲノム編集による改変は計画通りに完了しており、Creマウスとの交配により、神経突起をクリアに観察できることを確認したが、CreERT2マウスとの交配では予想どおりの誘導が得られていない。改変型Creレポーターマウスは、オキシトシン受容体発現細胞だけでなく神経科学一般に有用であるため、前述の問題を解決した上で論文発表を目指す。
|
次年度使用額が生じた理由 |
旅費の支出が少なかったのは、COVID-19影響下で複数の学会開催がオンラインとなったため。人件費の支出が無かったのは、他研究課題との共有によりまかなえたため。次年度使用計画としては、実験用マウスの購入・飼育費および研究成果を論文投稿する費用として充てる。
|