哺乳類の雌雄間には種々の差異が存在し、その性差は特に生殖に関わる行動パターンに顕著に現れる。雄の性行動は能動的であり、齧歯類の雄は発情雌に対し馬乗りとなるマウント行動、挿入行動を繰り返し、やがて射精行動に至る。一連の雄型性行動は、各々に特徴的な行動パターンとして現れるため、容易に区別することができる。一方、発情雌は雄のマウントに反応し、反射的に脊柱を湾曲させるロードシス行動を示し、雄を受け入れる。このように明確に異なる性行動パターンは、それぞれ雌雄の性に厳格に固定されている。そのため、性成熟した雌に、たとえ多量のアンドロゲンを投与してもある程度のマウント発現は観察されるが雄のレベルに比べ極めて低い。また、射精行動パターンに至っては決して観察されることはない。これは、中枢神経系に発達した性中枢の神経回路に構造的・機能的な雌雄差が形成されていることを反映している。 昨年度までの解析により、性成熟後の雌マウスの外側傍巨大細胞網様核を構成する3つの亜核群において、中間亜核の神経細胞が雌ラットおよび雌マウスにおいて雄型性行動パターンの発現を抑制していること、さらに、中間亜核のセロトニン神経細胞がこの抑制力に中心的な役割を担っていることが判明した。そこで今年度は、中間亜核のセロトニン神経細胞を起点とした神経回路網の可視化を行うため、セロトニン神経に選択性を示すSERT-Cre系統の成体雌マウスの外側傍巨大細胞網様核の中間亜核に、経シナプス性の順行性ウイルストレーサーを注入し、セロトニン神経特異的にウイルスを感染させた。その結果、外側傍巨大細胞網様核の中間亜核のセロトニン神経細胞から上行性神経投射として前頭野、視索前野、視床下部外側野、室傍核、下行性神経投射として下位脳幹網様体、腰仙髄の運動ニューロン及び自律神経節前細胞への神経回路が雌脳に発達していることが明らかとなった。
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