研究課題/領域番号 |
20K06473
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
菊地 元史 自治医科大学, 医学部, 教授 (60332988)
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研究分担者 |
早川 盛禎 自治医科大学, 医学部, 講師 (30326847)
高瀬 堅吉 自治医科大学, 医学部, 教授 (80381474)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ST2 / 神経免疫連関 / 行動解析 / 抑うつ |
研究実績の概要 |
免疫関連ペプチドとして知られるST2を過剰発現する遺伝子改変マウスに、新たに抑うつ気分が見出されたことが、本研究計画立案の端緒となっている。本研究では、ST2が免疫機能を担いつつ、一方で、個体行動において果たす役割を明らかとし、免疫機能と個体行動特性との連関を探究する。研究計画として、ST2過剰発現マウスの行動特性をさらに精到に解析すること、そのうえで、ストレ ス負荷による生理的ST2発現の変化、選択的セロトニン再取り込み阻害薬等の薬物投与による行動特性の変化を観察する予定である。併せて、視床下部-下垂体-副腎皮質系機能の関与についての検証、脳におけるサイトカイン発現の組織学的解析、 トランスクリプトーム解析を行い、ST2が行動特性に影響を与える分子機構についてのデータを集める。 2020年度においては、行動表現型について解析を進めた。Visual placing test、Preyer reflex test、Von Frey filament test、Olfactory habituation/dishabituation test、Hot-plate test、Rotarod test、Wire hang test、General activity monitoring、Light-dark exploration test、Forced swimming test、Tube test、Novel place/object recognition test、Social interaction test and social recognition test、Two bottle choice test、 tailsuspension testなど一連の行動実験によって、ST2過剰発現マウスにおける社会行動の低下、抑うつ様行動の増加を定量的に示し、原著論文として発表した(Kikuchi et al., 2020)。加えて、COVID-19の感染拡大に伴う研究制限下ではあったが、今後の研究展開に向けて、標的遺伝子発現解析のためのreal-time PCR系を構築し、また、これまで目視によっていた行動表現型解析について、自動行動解析システム(ANY-maze)を導入し、改めて、ST2過剰発現マウスの行動表現型を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
2020年度においては、「研究実績の概要」に一部示したように、行動特性を精到に解析すること、生理学的解析を始めることを目標としていた。COVID-19感染症対策として、断続的に研究自粛が求められたことにより、学内で要時繁殖させているST2遺伝子改変マウスの計画的な供給が望めない状況となった。そのため、使用動物数に比較的融通の利く行動解析実験に注力し、生理学的・生化学的解析は、安定供給が可能となるまで留保することとした。 結果として、行動解析に関しては、計画通り一連の解析を終え、十分な成果を得ることができた。一方で、生理学的解析については、解析手法を確立する予備的段階に留まることとなった。行動解析の結果は、当初計画の妥当性を支持するものであったことから、今後、生理学的解析を集中的に進めることで、進捗の遅れを取り戻すことができると考えている。そのための機材もすでに準備した。実験動物に関しても、今年度夏ごろを目処に必要な個体数が揃うよう繁殖計画を策定し、再開に向けて準備を整えている。
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今後の研究の推進方策 |
まずは、遅れている生理学的な解析に優先的に取り組む予定である。特に、ストレス負荷によって、生理的にST2の合成・分泌が変化するかどうかを、血中レベル・組織レベルで、ELISA、real-time PCRによって解析する。ストレス負荷には、Kambe and Miyata(2015)の方法を用いる。この方法では、マウスをチューブ内に毎日一定時間拘束することを2週間にわたって繰り返すことで、慢性拘束ストレスを負荷する。先行研究から、当該ストレスを負荷されたマウスは、強制水泳試験と尾懸垂試験で抑うつ様行動を示すが、二瓶選択試験では対照群と比べて顕著な差が認められないことが報告されている。これはST2過剰発現マウスが示す行動特性と極めて類似しているためである。また、これまで、ST2の発現部位として免疫器官のみが検討されてきたが、視床下部ー下垂体ー副腎皮質系でのST2あるいはその受容体の発現解析も行う予定である。 これと並行して、ST2過剰発現マウスにみられる行動特性(強制水泳試験、尾懸垂試験でみられる顕著な抑うつ傾向)が、抗うつ薬の投与によって改善するかを調べる。Lucki et al.(2001)の研究から、ST2過剰発現マウスの背景系統であるBALB/cは、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(selective serotonin reuptake inhibitor;SSRI)への反応性を示すことが報告されている。そこで、ST2過剰発現マウスに20mg/kgのFluvoxamineを腹腔内投与し、強制水泳試験および尾懸垂試験を行うことで判断する。 上記の解析結果をもとに、最終的には、脳の組織解析、トランスクリプトーム解析を行い、ST2が行動特性に関与する分子機構を解明したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
ST2遺伝子改変マウスは、学内で要時繁殖をさせている。当該年度は、COVID-19感染症対策として、断続的に研究自粛が求められた時期があったため、計画的な繁殖計画を立てることができなかった。そのため、使用動物数に比較的融通の利く行動解析実験のみを進行させ、生理学的・生化学的解析は、安定供給が可能となるまで留保することした。現在、繁殖を再開させているため、令和3年度夏を目処に、遅れていた解析を進める予定である。2020年度未使用額は、当初計画通りの費目で、2021年度に使用する。
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