研究課題/領域番号 |
20K06479
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研究機関 | 国立研究開発法人国立国際医療研究センター |
研究代表者 |
岡村 匡史 国立研究開発法人国立国際医療研究センター, その他部局等, 実験動物管理室長 (00333790)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 本態性振戦 / パーキンソン病 / 次世代シークエンサー / ラット |
研究実績の概要 |
申請者は、F344系統の系統維持過程で、全身性の動的振戦を自然発症する個体を発見した。このラットは生後2週齢頃から動的振戦を発症し、交配実験により常染色体上の単一劣性遺伝子が原因であることが示された。本態性振戦患者において、パーキンソン病の発症率は本態性振戦がない同年代の通常人口の4倍であるとの報告がある。一方で、パーキンソン病は、発症当初診断を本態性振戦とされることも多く、両疾患の関連を否定する報告もある。本研究の目的は、交雑群を作製する必要がなく、複数個体由来のDNAをバルク化して全ゲノムシークエンスを行う、改良型バルク法を用いて新規本態性振戦ラットの原因遺伝子を同定する。さらに、薬物によりパーキンソン病を誘導し、ラットを用いて本態性振戦とパーキンソン病との関連を明らかにする。 今年度は後代検定にて遺伝型をヘテロ接合型と確定できた10匹の個体からDNAを抽出し、バルク化して次世代シークエンサーにより塩基配列を解読した。ヘテロ接合体1匹分のDNAを用いた場合にはde novo変異および原因遺伝子変異共にSNP indexの期待値が0.5になり、区別がつかないことが想定された為、バルク化したDNAサンプルを用いて解析を行った。その結果予想に反し、エクソン領域におけるアミノ酸置換を伴うSNPだけでも、SNP indexが0.5(0.48-0.52に設定)を示すSNPが合計842個同定された。このことは、近交系であってもヘテロのSNPを多数有することを示している。次年度は後代検定により正常型および変異型(ホモ接合体)と判定された個体のDNAをバルク化し、同様に全ゲノム配列を決定することで、系統が共通で持っているヘテロSNPを排除することで、原因遺伝子変異を同定する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究は、改良型バルク法により多大な労力を必要とする染色体マッピングを行うことなく、原因遺伝子を同定する画期的な方法を提供する可能性がある。病態モデルとしての有用性を示すためには、原因遺伝子の同定が必要不可欠であり、今年度はその解析を優先したため、予定していた神経行動学的解析を次年度に持ち越した。多少の進捗の遅れはあるものの、原因遺伝子の同定には着実に近づいており、研究全体の進行については概ね予定どおり進行している。
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今後の研究の推進方策 |
予想以上に、近交系であっても多数のヘテロのSNPを有していたため、正常型および変異型(ホモ接合体)の配列と比較することで、系統が共通で持っているヘテロSNPを排除する。そのことにより、変異個体が特有に持っているSNPを絞り込み、原因遺伝子変異を同定する。また、オープンフィールドテスト(情動性試験)、ロータロッドテスト(運動整合性)等を行い、本態性振戦モデルラットの病態評価を行う。さらに、薬理学的解析(本態性振戦治療薬をラットの腹腔内に投与し薬物による動的振戦への治療効果を評価)、および薬物誘導モデルマウスの研究により、振戦の発生原因は小脳系の下オリーブ核が有力であるとされているため、新規本態性振戦モデルラットの大脳、小脳および脊髄の病理学的解析を行う。 また、筋ジストロフィー症のモデルの可能性も排除できないため、マイクロCT装置を用いた骨解析、および筋肉の病理学的解析も追加する。
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次年度使用額が生じた理由 |
正常型および変異型(ホモ接合体)のゲノム配列を比較する必要があるため、病態解析に必要な経費約40万円を次年度に繰り越し、ゲノム解析を優先する。
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