2023年度は、前年度に行った抑制性クロマチンドメインの生細胞動態についてさらに解析を進めた。
HeLa細胞にH3K27me3-mintbodyを発現させて、超解像度蛍光顕微鏡を用いて観察した結果、細胞核内に複数の輝点が観察された。H3K27me3-mintbodyによる輝点は、核膜直下や核小体近傍に多く局在していた。また、Cy3-dUTPを取り込ませた細胞では、DNA複製機中期(mid-S期)の複製ドメインとの一致が見られた。これらの特徴は、これまで抗H3K27me3抗体を用いた免疫染色により観察されているパターンであり、抑制性クロマチンの局在箇所と一致することが示された。一方で、転写活性の高いクロマチンドメインをH3K9ac特異的mintbodyを用いて検出したところ、H3K27me3ドメインと同様に核内に複数の輝点が観察されたが、概してH3K27me3ドメインとは排他的な局在性を示した。輝点のサイズを蛍光シグナルの広がりから計測したところ、H3K27me3ドメインは直径約0.38マイクロメートル、H3K9acドメインは直径約0.30マイクロメートルであった。H3K27me3ドメインについて、個々のドメインに一番近いH3K9acドメインとの距離の統計をとると、50%の頻度で0.28マイクロメートルであったことから、両者の一部はオーバーラップすることが示唆された。また、H3K9acドメインとH3K27me3ドメインの細胞内動態を調べたところ、拡散係数(um2/s)はそれぞれ0.0013±0.001、0.0007±0.0007であり、エピジェネティック修飾の種類よりもDNA密度による影響が大きいことが分かった。
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