研究課題
申請者はファンコニ貧血の責任遺伝子産物(FAタンパク質)の1つであるFANCD2タンパク質と脂質代謝に関与する酵素の1つが相互作用することを見出した。これまでDNA損傷の中でも特にDNA鎖間架橋損傷(ICL)への細胞応答、修復に関与することが知られているFAタンパク質が、主に細胞質中で行われる脂質代謝制御にどのように関与するかについてはほとんど解析されておらず、依然として不明な点が多い。予備検討でFANCD2タンパク質と相互作用することが見出された脂質代謝関連因子については、RNAiを利用した発現抑制によって表現型解析を行っていたが、オフターゲット効果を抑えたより詳細な解析を行うため、当該年度においては、同定した因子の遺伝子破壊細胞株の樹立をヒト骨肉腫由来のU2OS細胞を用いて試みた。クリスパーキャス9の技術を利用した遺伝子破壊の結果、当該因子の発現の消失、およびその原因となる変異の特定まで行い、最終的に複数の遺伝子破壊株の樹立に成功した。今後はこれらの遺伝子破壊株を用いてDNA損傷応答と脂質代謝制御の連関に関して解析を行う予定である。また、申請者はこれまでにFAタンパク質の発現抑制によって細胞の脂質代謝制御に影響が見られる結果を見出していたが、本解析においてもFANCD2の遺伝子破壊株の樹立、ならびに野生型FANCD2を相補した細胞株を樹立し、これらを用いて解析を行なった。その結果、FANCD2タンパク質の欠損によって脂質代謝制御に異常が見られ、それらは野生型FANCD2を相補することによって親株となる細胞レベルにまで回復することを実験的に明らかにした。これらの結果はFAタンパク質の異常が、脂質代謝に影響することを明確に証明しており、本課題の初年度の成果としては極めて重要である。
3: やや遅れている
新型コロナウイルスの蔓延に伴う大学業務の大幅な変更(入校制限、オンライン・オンデマンド講義への対応、受け入れ予定の学生の自宅待機など)のため当初予定していた解析、実験等に遅れが生じている。
当該年度に行われた解析によって、本研究課題の申請時に設定した仮説である「脂質代謝制御におけるFAタンパク質の機能的関与」が実験的に一部証明された。今後は、これらの生物学的意義、および詳細なメカニズムの解明を目指して解析を行う。また、樹立に成功した脂質代謝関連因子の遺伝子破壊株を用いて、本来当該年度に実施予定であった脂質代謝異常によって引き起こされるゲノム安定性への影響についての解析についても進める予定である。
当該年度における大学業務の大幅な変更(入校制限、オンライン・オンデマンド講義への対応、受け入れ予定の学生の自宅待機など)のため、当初予定していた解析・実験等に一部遅延が生じた。あわせて予定していた各種学術集会の開催中止にともない、当初予定していた使用額に変更が生じ、結果的に次年度使用が生じることとなった。今後は遅れをとりもどすために新たなキットの購入、および研究協力者への実験サンプルの輸送等に使用予定である。
すべて 2020 その他
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件) 備考 (2件)
Scientific Reports
巻: 10:19704 ページ: -
10.1038/s41598-020-76898-2
http://www.research.kobe-u.ac.jp/brce-sugasawa/index.html
https://www.kobe-u.ac.jp/research_at_kobe/NEWS/news/2020_11_17_03.html