研究課題/領域番号 |
20K06488
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
上野 勝 広島大学, 統合生命科学研究科(先), 准教授 (90293597)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 環状染色体 / がん / 抗がん剤 |
研究実績の概要 |
ヒトの染色体は線状であるが、ある種のがんでは高い頻度で環状染色体が見つかる。環状染色体をもつがん細胞のみを選択的に死滅させることができれば、新しい作用機構を持つファーストインクラスの抗がん剤が開発できる。そこで、本研究の目的は、ヒト環状染色体を維持する独自の細胞株を用いて、ヒト環状染色体の維持に関与する遺伝子や薬剤を発見し、発見した因子の作用機構を解析することで、環状染色体を持つ細胞に、どのような不都合が生じ、その不都合をどのような因子が克服しているのかを明らかにすることとする。上記の目的を達成するために、本年度は、主にヒト培養細胞を用いて、ヒト環状染色体を持つ細胞の生育を阻害する因子の探索を行った。具体的には、環状染色体保有患者の血液中のB細胞をEBウイルスによって不死化した細胞の生育を阻害する薬剤の探索を行った。その結果、トポイソメラーゼIの阻害剤であるカントプテシンが、環状染色体保有患者の血液中のB細胞をEBウイルスによって不死化した細胞の生育を強く阻害することを発見した。一方、カントプテシンは、線状染色体保有健常者の血液中のB細胞をEBウイルスによって不死化した細胞の生育は、強く阻害しなかった。 上記のヒト細胞を用いた実験と並行して、環状染色体をもつ分裂酵母を用いて、環状染色体の安定性に関与する薬剤や遺伝子の探索と解析も行った。具体的には、トポイソメラーゼIIの阻害活性を持つと考えられる抗癌剤の類似化合物や、ヒトGsk3阻害剤などが、環状染色体をもつ分裂酵母の生育を阻害することを発見し、その作用機構について解析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、環状染色体保有患者の血液中のB細胞をEBウイルスによって不死化した細胞の生育を阻害する薬剤の探索を行った。その結果、トポイソメラーゼIの阻害剤であるカントプテシンが、環状染色体保有患者の血液中のB細胞をEBウイルスによって不死化した細胞の生育を強く阻害することを発見した。一方、カントプテシンは、線状染色体保有健常者の血液中のB細胞をEBウイルスによって不死化した細胞の生育は、強く阻害しなかった。この原因として、上記の2つの細胞株の遺伝的背景の違いによるものである可能性は否定できないが、少なくとも、タンパク質合成を阻害する薬剤であるG418については、 線状染色体保有健常者の血液中のB細胞をEBウイルスによって不死化した細胞の方が、環状染色体保有患者の血液中のB細胞をEBウイルスによって不死化した細胞よりも感受性が高かった。これらのことから、少なくとも環状染色体保有患者の血液中のB細胞をEBウイルスによって不死化した細胞は、どのような薬剤に対しても、線状染色体保有健常者の血液中のB細胞をEBウイルスによって不死化した細胞よりも感受性が高いという可能性は否定できた。 環状染色体をもつ分裂酵母を用いた研究では、トポイソメラーゼIIの阻害活性を持つと考えられる抗癌剤の類似化合物とヒトGsk3阻害剤が、環状染色体をもつ分裂酵母の生育を強く阻害することを発見した。さらに、ヒトGsk3阻害剤が、環状染色体をもつ分裂酵母の生育を阻害する機構について解析を行った結果、分裂酵母のGsk3とGsk31の両方が機能しないと環状染色体を持つ分裂酵母が生育できないことを発見した。これらのことから、ヒトGsk3阻害剤は、分裂酵母のGsk3とGsk31の両方を阻害することで、環状染色体を持つ細胞の生育を阻害している可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度の研究から、、トポイソメラーゼIの阻害剤であるカンプトテシンが環状染色体保有患者の血液中のB細胞をEBウイルスによって不死化した細胞の生育を強く阻害することがわかったが、カンプトテシンが環状染色体をもつヒトがん細胞の生育を阻害するかどうかは、不明のままである。そこで、2022年度は、軟部組織で最もよく発生するがんである脂肪肉腫のうち、約7割という高い頻度で環状染色体を持つことが報告されている高分化型脂肪肉腫の細胞株を入手し、その株が環状染色体を持つかどうかを調べる。もしこの細胞株が環状染色体を持っていれば、カントプテシンがこのがん細胞由来の細胞株の生育を強く阻害するかどうかを調べる。 分裂酵母については、Gsk3阻害剤が環状染色体を持つ細胞の生育を阻害する機構について解析を行う。具体的には、分裂酵母のGsk3とGsk31の両方が機能しないと環状染色体を持つ分裂酵母が生育できない機構の解析を行うために、gsk31遺伝子の温度感受性変異株を作成する。そして、その株を用いて、分裂酵母のGsk3とGsk31の両方が機能しないと環状染色体を持つ分裂酵母の細胞周期がどこで止まるのかを解析する。Gsk3とGsk31は、共にリン酸化酵素であることから、これらの酵素によってリン酸化されるタンパク質が環状染色体を持つ分裂酵母の生育に関与する可能性が考えられる。そこで、Gsk3とGsk31の下流の因子の探索も試みる。また、分裂酵母のヒストンH2AZをコードするPht1が、環状染色体を持つ酵母の生育に関与するかどうかについても解析を行う。さらに環状染色体を持つ分裂酵母の生育を阻害する新規薬剤の探索も行うことで、環状染色体を持つヒト細胞の生育に関与する薬剤の発見につなげる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、環状染色体の安定性を評価するアッセイ系の確立に多くの時間を費やしたため、そのアッセイ系を用いたスクリーニングの実験に至らなかった。次年度はアッセイ系を確立させ、そのアッセイ系を用いてスクリーニングを行うため、本年度使用しなかった費用を使用する予定である。
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