本研究では、環状染色体を持つヒト細胞の生育を阻害する化合物候補としてカンプトテシンが得られた。異型脂肪腫様腫瘍や、隆起性皮膚線維肉腫では70%以上の頻度で環状染色体を持つことがわかっている。これらのことから、カンプトシンは、異型脂肪腫様腫瘍や、隆起性皮膚線維肉腫の抗がん剤として優れた効果を発揮することが期待できる。ヒト細胞を用いたアッセイ系にはいくつかの問題あることがわかったため、部分的にヒトと基本的な染色体維持機構がヒトと保存されている分裂酵母を用いた実験を推進することとした。本年度は、環状染色体を持つ分裂酵母を用いて、環状染色体の維持に関与する薬剤や遺伝子の探索と解析に関する実験については、以下のことを明らかにした。当研究室では、pot1 gsk3 gsk31三重破壊株が合成致死であることを発見しているが、その機構は、わかっていない(論文未発表データ)。そこで、分裂酵母のGsk3とGsk31の両方が機能しないと環状染色体を持つ分裂酵母が生育できない機構の解析を行った。その結果、分裂酵母のGsk3とGsk31の両方が機能しないと環状染色体を持つ分裂酵母の細胞において、細胞の形が異常になる割合が増加することを発見した。また、環状染色体を持つ分裂酵母において、ヒストンH2AZをコードするPht1の機能についても解析を行った結果、pht1は環状染色体を持つ分裂酵母の生育に重要であることがわかった。さらに環状染色体を持つ分裂酵母の生育を阻害する新規薬剤の探索も行った。その結果、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤であるロミデプシンが環状染色体を持つ分裂酵母の生育を阻害することを発見した。その他にも、環状染色体を持つ分裂酵母の生育を阻害する薬剤を複数発見したが、現在それらの化合物の機能については、解析中である。
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