ゲノムの担い手である染色体が細胞分裂を経て受け継がれる際、相同な染色体間の接着(合着)とその分離のサイクルが繰り返される。これまで、タンパク質に翻訳されない非コードRNAが、相同な染色体間を合着することが示されている。しかし、より普遍的なコードRNAが、相同でない染色体領域間を合着させるかどうかは不明である。このコードRNA介在型合着の理解に挑んだ研究はこれまでに存在しない。本研究は、分裂酵母をモデルとして人為的な染色体再編を誘導することにより、コードRNAを介したDNA配列に依存しない染色体間合着の同定を目指した。 令和2年度では染色体再編を誘導する複数の方法を検討した。当初計画していたセントロメア破壊による再編法に加え、新規の染色体再編法を開発した。具体的には、(1)任意の染色体領域を分裂酵母ゲノム上で縦列に重複させる手法、および(2)任意の領域を転座させる手法の2つである。令和3年度は、上述(1)の有効性を検証するため、分裂酵母ゲノム全域にわたって網羅的に染色体部分重複を誘導する実験を行った。 令和4年度前半は3年度の染色体部分重複データの解析を行った。ゲノム全域で部分重複を誘導した結果、分裂酵母染色体の任意DNA配列を最長2.6メガベースまで縦列に重複させることが可能であった。この手法は分裂酵母で部分異数性を系統的に誘導する初めての成果である。また、4年度後半には、当該手法を用いてRNA介在型染色体合着の探索を試みた。染色体部分重複を誘導した後、新規染色体合着の発生有無を遺伝学的にスクリーンする実験を行った。染色体の合着、または解離に関与するコヒーシン、コンデンシン変異体を用いてコードRNA介在型染色体合着の検出を試みたが、現時点で新規合着を示唆する結果は得られていない。
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