RNA顆粒制御因子の過剰発現に伴う『分裂酵母の細胞死』を利用した表現型スクリーニングによって得られた、ストレス顆粒の形成を促進する化合物、および抑制する化合物について、その作用メカニズムの解析を行った。その結果、SG形成を促進する化合物の一種は、高濃度で分裂酵母を処理することで酸化ストレスを誘導するという特徴を有することが明らかになった。興味深いことに、同じ化合物について低濃度で分裂酵母を処理することで、熱ストレスなどの環境ストレスに応答したストレス顆粒の形成が抑制された。従って、細胞に対して持続的に弱い酸化ストレス負荷をかけることにより、その後に引き続く環境ストレスに適応し、ストレス顆粒の形成が阻害される可能性が考えられる。RNA顆粒の構成因子や制御因子の多くは、分裂酵母からヒトに至るまで高度に保存されているため、本化合物によるストレス顆粒形成の制御メカニズムは、分裂酵母のみならずヒトを含む高等哺乳生物も保存されている可能性が高い。 また、ストレス顆粒の構成因子でありRNA結合タンパク質PUF(Pumilio and FBF)ファミリーに属するPuf3およびPuf4が、イノシトールリン脂質代謝のキーファクターであるPI4P5キナーゼシグナルを制御することを見出した。Puf3やPuf4は環境ストレス条件下においてはストレス顆粒に局在するが、非ストレス時においては細胞質に局在し、RNA結合能依存的にPI4P5キナーゼの翻訳レベルを引き上げることを明らかにした。
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