研究課題/領域番号 |
20K06495
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研究機関 | 福岡歯科大学 |
研究代表者 |
石井 健士 福岡歯科大学, 口腔歯学部, 講師 (70516731)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | RNA / 酸化損傷 / アポトーシス / 老化 / 神経変性疾患 / RNA結合タンパク質 / 8-oxoG |
研究実績の概要 |
我々の身体を構成する細胞はエネルギー産生の過程で酸素を利用する。このことが原因となり、細胞は常に酸化ストレスに晒されている。この酸化ストレスにより生じる活性酸素は細胞内の様々な生体分子を酸化し、その機能に悪影響を与える。特に、遺伝情報の伝達に関与するRNA分子の酸化は起こりやすく、その酸化損傷は生体に深刻な障害を引き起こすことが知られている。また、このRNAの酸化損傷が生体の老化や認知症を含む神経変性疾患の大きな原因となることが明らかになってきている。 我々は、酸化損傷を受けたRNAの代謝に関わる分子機構について研究を行なってきた。その成果として、酸化損傷RNAに結合して分解へと導くタンパク質AUF1や、酸化損傷RNAを感知して細胞のアポトーシスを誘導するタンパク質PCBP1を同定している。 本研究では、新たにPCBP1のファミリータンパク質に注目し、酸化ストレス下での役割について解析を行った。その結果として、PCBP2を新規の酸化ストレス誘導アポトーシス関連因子として同定した。PCBP2はPCBP1と同様に酸化損傷RNAに特異的に結合することを明らかにした。また、ヒト細胞よりPCBP2遺伝子欠損株を作製して機能解析を行った結果、酸化ストレスにより誘導されるアポトーシスをPCBP2が抑制する働きを持つことを示した。これらの成果を基に、生体が持つ酸化ストレスに対する生体防御機構の解明を目指し研究を続けている。 本研究の成果を基盤として生体における酸化ストレス応答機構の解明を推し進めることで、我が国の超高齢化社会で大きな問題となっている老化や認知症を防ぐ手立ての確立を目指したい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに我々は、酸化損傷を受けたRNAの代謝に関わる分子機構について研究を行なってきた。その成果として、酸化損傷RNAに結合して分解へと導くタンパク質AUF1や、酸化損傷RNAを感知して細胞のアポトーシスを誘導するタンパク質PCBP1を同定している。 今年度の研究では、新たにPCBP1のファミリータンパク質に注目し、酸化ストレス下での役割について解析を行った。 その結果、4種存在するPCBP1ファミリータンパク質の中で、PCBP1とPCBP2が酸化損傷RNAに特異的に結合することを明らかにした。また、ヒト細胞よりPCBP2遺伝子欠損株を作製して機能解析を行った結果、酸化ストレスにより誘導されるアポトーシスをPCBP2が抑制する働きを持つことが示された。また、これらの研究結果をまとめ、原著論文として科学雑誌(Journal of Biological Chemistry, Vol.295, pp12247-12261)において発表を行っている。 今回の研究成果を基に、この後も酸化損傷RNAの代謝機構について解析を行いたい。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究では、新たにPCBP1のファミリータンパク質に注目し、酸化ストレス下での役割について解析を行った。 その結果、4種存在するPCBP1ファミリータンパク質の中で、PCBP1とPCBP2が酸化損傷RNAに特異的に結合することを明らかにした。また、ヒト細胞よりPCBP2遺伝子欠損株を作製して機能解析を行った結果、酸化ストレスにより誘導されるアポトーシスをPCBP2が抑制する働きを持つことが示された。 しかしながら、酸化ストレス下でのアポトーシス誘導において促進的な働きを持つPCBP1と、抑制的な働きを持つPCBP2との機能的な関連性は明らかになっていない。また、酸化ストレス誘導アポトーシスの開始に関わる両因子が、どのようにして下流にシグナルを伝達していくのかも明らかでない。 今後は、酸化ストレス誘導アポトーシスにおけるPCBP1とPCBP2の相互作用と、この経路において各因子と機能的に協働する因子の同定を目標に研究を進展させていきたいと考えている。そのために、ヒト細胞を用いたPCBP1、PCBP2二重欠損株の作製や、各因子の結合タンパク質の精製を計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
世界的なコロナウイルスの流行に伴い、研究実施期間が短縮されたため次年度使用額が生じた。
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