研究課題/領域番号 |
20K06498
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
凌 楓 国立研究開発法人理化学研究所, 環境資源科学研究センター, 専任研究員 (70281665)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 出芽酵母 / ミトコンドリアDNA / 経時寿命 / mtDNAの組換酵素Mhr1 / mhr1-1変異 / アポトーシスの活性化因子 / 超抑制複製 / TCA回路 |
研究実績の概要 |
真核生物のモデルとして出芽酵母は20世代でミトコンドリアDNA(mtDNA)のホモプラスミーになる性質を持つ。出芽酵母をモデルにして得られた実験データの再現性が得られるという特徴を持っている。出芽酵母の経時寿命維持においてmtDNAの組換酵素Mhr1の働きが欠かせないという結果をすでに得た。しかし、なぜMHR1遺伝子上の点突然変異(mhr1-1)が出芽酵母の経時寿命を顕著に短縮するかについて不明なままである。本年度はアポトーシスの活性化因子をコードする遺伝子YCA1の破壊変異をmhr1-1変異細胞に導入すると、delta_yca1 mhr1-1の二重変異株は野生型出芽酵母とほぼ同様な経時寿命を示したことを見出した。この結果から、mtDNAの組換能がアポトーシスの活性化を抑制することで出芽酵母の経時寿命の維持に役割を果していることが示唆された。 細胞のヘテロプラスミーにおいて複製開始点を持つ、レプリコンの小さい欠失変異mtDNA が野生型mtDNAより優勢的に複製することができる。出芽酵母においてはこの現象が超抑制複製(hypersuppressiveness)として知られている。また、活性酸素種(ROS)によって活性化される組換え依存型ローリングサークル型mtDNA複製に依存すること、TCA回路が活性化すると細胞内のROS発生量が増えることが知られている。本年度では、0.5%のグルコースを炭素源とする培地においては、2%のグルコースを炭素源とする培地で培養した出芽酵母細胞内のROSの発生量より少ないことが起き、欠失変異mtDNAの優勢複製も予想通り、抑制されることを見出した。これの結果からTCA回路を調節することで欠失変異mtDNAの優勢複製を抑制することができると示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画通り、進行しています。
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今後の研究の推進方策 |
高等動物のmtDNAでは、極めて稀に複製時のスリップで欠失変異が起き、欠失領域の両端に必ず10塩基対前後の繰り返し配列が存在し、鍵となるのは繰り返し配列の間で起こる二本鎖切断でmtDNAの欠失変異を誘起するモデルが提唱されている。次年度では、ヒト細胞においても、除去修復酵素によるmtDNAの二本鎖切断が欠失変異を誘導するかどうかを調べる。そのために、ヒト体細胞に対してフリューダイムC1 (FluidigmC1 System)とリアルタイムPCRとの組合せで、各細胞におけるNADHユビキノンオキシドレダクターゼ サブユニット4(Mt-ND4)をコードする遺伝子の欠失変異mtDNAの割合を指標に、ヘテロプラスミーのレベルをシングルセル解析により測定する 。酵母のApn1のヒトホモログはそれぞれAPE1であり、その遺伝子産物はミトコンドリアにも局在している。APE1に対する阻害剤も知られている。胎児肺組織由来の線維芽細胞 (Tig-3) においてMhr1のヒトホモログ(hsMhr1) をノックダウンすると欠失変異mtDNAによるヘテロプラスミーのレベルが顕著に増加する結果を既に得た。次年度の研究では、APE1を化合物で阻害すると、欠失変異mtDNAによるヘテロプラスミーの程度が減少するかどうかについてTig-3細胞においてシングルセル解析を行い、欠失変異mtDNA の生成に対する除去修復酵素の役割を明らかにする。APE1の化合物による阻害とhsMHR1を高発現したTig-3細胞においてシングルセル解析で調べ欠失変異mtDNAによるヘテロプラスミー形成との相互関係を明らかにすることでヒト細胞における欠失変異mtDNA の生成機構を解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
フリューダイムC1 (Fluidigm C1 System)に使うC1プレートは一枚5万円もかかります。この出費を別のRIKEN の所内予算で購入したためです。本年度では続けて購入いたします。
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