研究課題/領域番号 |
20K06500
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研究機関 | 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(新分野創成センター、アストロバイオロジーセンター、生命創成探究 |
研究代表者 |
山下 朗 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(新分野創成センター、アストロバイオロジーセンター、生命創成探究, 新分野創成センター, 特任准教授 (30312276)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 減数分裂 / 分裂酵母 / RNA結合タンパク質 |
研究実績の概要 |
本研究は、分裂酵母S. pombeをモデル系として、生殖細胞の形成に欠かせないプロセスである減数分裂の開始を制御する分子機構の解明を目標としている。分裂酵母は、栄養源が枯渇すると体細胞分裂による増殖を停止し、有性生殖過程へと移行して減数分裂を行う。外界の栄養状態が細胞内でTORキナーゼを介して伝達され、最終的にRNA結合タンパク質Mei2が活性化することで減数分裂が誘導されることが示されている。また、Mei2が減数分裂開始の誘導とは独立して、減数分裂の進行に欠かせない遺伝子群の発現制御を行っていることが明らかにされている。しかし、減数分裂開始のスイッチ分子としてのMei2の機能は不明である。栄養源認識からMei2の活性化に至る過程にも不明な点が多く残されている。本研究では、Mei2の減数分裂誘導活性の実態を明らかにし、Mei2を中心とする分裂酵母の減数分裂開始制御機構を解き明かす。 令和2年度は、RNA結合タンパク質であるMei2の機能に迫るため、結合RNAの探索を行った。既知のMei2結合RNAであるmeiRNAを欠損させた変異株からMei2を免疫沈降により精製し、同時に精製されてくるRNAを特定するRIP-seq法を行って、Mei2の結合RNAの候補を取得した。複数個の候補について、減数分裂誘導条件下でMei2と共免疫沈降されてくることが確認された。並行して、遺伝学的手法によってMei2関連因子の探索を行った。Mei2の部分失活変異と他の変異を組み合わせることで、複数あるMei2の機能のうち、減数分裂開始誘導時の機能のみに欠損が生じていることが期待される株を作製し、抑圧変異体の探索を行った。現在、抑圧変異体の解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ堝の影響で実験の中断期間もあったため、Mei2の生化学的手法による結合RNAの探索と、変異株の抑圧因子の単離という遺伝学的手法による新規関連因子の探索に焦点を絞り、解析を進めた。その結果、Mei2関連因子として、これまでの研究からは得ることができなかった新規のものを複数取得することができた。今後これらの因子の解析を進めることで、Mei2による減数分裂開始誘導の詳細が明らかになると期待される。 栄養源飢餓からMei2の活性化に至る経路の解析に関しては、新規Mei2関連因子の探索と解析に重点を置いたため、当初の想定を超えるような大幅な進捗は見られなかったが、次年度につながるような実験系の構築が進んだ。栄養状態に応答したTORキナーゼの活性調節にtRNAの前駆体が関わっていることを見出していたが、その詳細は不明であった。tRNA前駆体に結合する因子を特定して、tRNA前駆体がTOR活性を調節する機構を明らかにするため、tRNA前駆体を分裂酵母より効率よく精製する系の構築を進めている。また、栄養源飢餓に応答して有性生殖、減数分裂が始まる仕組みを1細胞レベルで解析するために、TORキナーゼの活性状態を顕微鏡下で生細胞観察できるバイオセンサーの開発を行っている。次年度以降、これらの実験系を整え、それらを用いて、栄養源の認識からMei2による減数分裂開始誘導に至る経路を明らかにしていく。
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今後の研究の推進方策 |
Mei2の結合RNA群の解析を進める。結合が確認されたものについては、RNAをコードする遺伝子の破壊株や過剰発現株などを作製し、減数分裂開始に特に注目し、表現型の解析を行う。これまでの解析から、Mei2が多数のRNAと結合している可能性も出てきている。Mei2が認識する配列を特定し、配列情報をもとにした結合RNAの探索を進める。 変異体を用いたMei2関連因子の遺伝学的探索を継続する。得られた抑圧変異の解析を進める。抑圧変異の原因遺伝子を特定し、遺伝子破壊を行って表現型を詳細に観察し、Mei2との関連を明らかにする。また、各抑圧変異がMei2の変異を抑圧した状態の遺伝子発現をRNA-seq法によって網羅的に調べ、Mei2の変異を抑圧する機構を明らかにする。抑圧変異の探索と解析に加えて、多コピー抑圧因子の単離を行う。 TORキナーゼについては、tRNA前駆体を分裂酵母より精製する系を構築し、同時に精製されてくる因子を特定する。得られてくる因子が、栄養状態に応じてtRNA前駆体との結合状態を変えるか調べる。それらの因子がTORの活性調節に関わるのか、in vivoの解析とin vitroのキナーゼ活性測定を組合せて検討する。TOR活性をモニターするバイオセンサーの開発を進め、栄養源飢餓に応答したTORの活性変化を詳細に観察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ堝の影響で実験の中断期間があり、試薬類や消耗品の使用が当初の想定より減少した。また、学会や打合せをオンラインで行ったため、旅費は発生しなかった。本年度繰り越し分は、次年度の解析で用いる試薬、消耗品と受託解析で使用する予定である。
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