研究課題
本研究は、有性生殖に欠かせないプロセスである減数分裂の開始を制御する分子機構の詳細を、分裂酵母S. pombeを用いて明らかにすることを目標としている。分裂酵母は、栄養源が枯渇すると無性的な増殖である栄養増殖を停止し、有性生殖過程へと移行して減数分裂を行う。外界の栄養状態が細胞内でTORキナーゼを介して伝達され、最終的にRNA結合タンパク質Mei2が活性化することで減数分裂が誘導されることが示されている。また、Mei2が減数分裂開始制御とは独立して、減数分裂の進行に欠かせない遺伝子群の発現制御を行っていることが明らかにされている。しかし、減数分裂開始のスイッチ分子としてのMei2の機能は未だ不明である。栄養源認識からMei2の活性化に至る、TORキナーゼを中心とする制御系にも不明な点が多く残されている。本研究では、Mei2の減数分裂誘導活性の実態を明らかにし、分裂酵母の減数分裂開始制御機構を解き明かす。令和3年度は、Mei2による減数分裂誘導機構を明らかにするための、前年度までに立ち上げた遺伝学的スクリーニングを進め、新規Mei2関連因子の探索を行った。Mei2の部分失活変異と他の変異を組み合わせ、複数あるMei2の機能のうち、減数分裂開始誘導時の機能のみに欠損が生じていると予想される株を作製し、この株の抑圧変異体の探索を行った。複数の候補因子が得られ、それらの解析を進めている。並行してTORキナーゼの新規関連因子の探索と解析を進めている。
2: おおむね順調に進展している
Mei2による分裂酵母の減数分裂開始制御を解き明かすために行ったMei2関連因子の遺伝学的スクリーニングを進めることで、減数分裂期に働く遺伝子群がクロマチン構造の変化によって発現制御されている可能性が浮かび上がってきた。Mei2の機能を部分的に失わせた減数分裂不能の変異体の抑圧変異スクリーニングから、ヒストン関連因子がMei2と関わることが明らかとなった。このヒストン関連因子の遺伝子破壊株を作製し、RNA-seqによる発現解析を行った。その結果、減数分裂期特異的に働く遺伝子群がクロマチン構造の制御によって体細胞分裂期に発現抑制されていることが明らかとなってきた。また、このスクリーニングからは、栄養源認識において中心的な役割を果たしているTORキナーゼに関連した因子も得られてきた。この因子の解析を進めることで、栄養源認識からMei2の活性化に至る過程についての新たな知見が得られることが期待される。栄養源認識からMei2の活性化に至る経路の解析については、栄養状態に応答したTORキナーゼの活性調節にtRNAの前駆体が関わっていることを見出していた。データベースサーチなどを行い、tRNA前駆体とTORキナーゼをつなぐ因子の候補を得た。この因子の遺伝子破壊株や過剰発現株を作製し、この因子がTORキナーゼの活性調節に関わることを示した。加えて、栄養源の枯渇に応答して有性生殖、減数分裂が始まる仕組みを1細胞レベルで解析するために、TORキナーゼの活性変化を顕微鏡下で生細胞観察できるバイオセンサーの開発を進めた。その結果、TORキナーゼの活性に応じて細胞内局在を変化させるセンサーを作製することができた。
Mei2の減数分裂誘導活性の実態を明らかにするため、これまでに取得したMei2関連因子の解析を進める。遺伝子破壊株や過剰発現株などを作製し、Mei2との関連に注目しつつ表現型解析を行う。減数分裂遺伝子の発現制御に関わることが明らかとなってきたヒストン関連因子については特に集中的な解析を行い、減数分裂遺伝子の発現制御の詳細な分子機構を明らかにする。関連して、様々な変異体を用いて複数あるMei2の機能を部分的に活性化する状況を作り出し、それぞれの状況における遺伝子発現の変化を網羅的に解析して、減数分裂開始時の遺伝子発現制御の全体像を明らかにする。さらに、Mei2機能を部分的に低下させた減数分裂不能の変異体の抑圧変異の探索と解析に加えて、この変異体を抑圧する多コピー抑圧因子の探索、解析を行う。Mei2の上流に位置するTORキナーゼを中心とする栄養源認識機構に関しては、開発したTORキナーゼ活性のバイオセンサーが、実際にTORキナーゼ活性を反映するセンサーとして使用できるか確認を進めるとともに、様々な条件で観察を行い、栄養源枯渇から減数分裂開始に至る過程の詳細を明らかにする。また、tRNA前駆体によるTORキナーゼの活性調節に関わると予想される因子について、遺伝学的解析と開発したバイオセンサーを用いた生細胞観察などを組み合わせて、解析を進める。
令和2年度のコロナ堝による実験の中断期間の影響もあり、本年度も試薬類や消耗品の使用が当初の想定より減少した。また、令和3年度に予定したRNA-seqによる遺伝子発現解析の準備についても遅れが生じ、令和4年度に実施することとなった。学会や打合せがオンライン開催となっため、予定していた旅費は発生しなかった。繰越分については、令和4年度の解析で用いる試薬、消耗品と受託解析、学会、打合せの旅費として使用する予定である。研究の効率化のため、必要に応じて短期間の技術支援員の雇用も計画している。
すべて 2022 2021 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)
Autophagy Reports
巻: 1 ページ: 51-64
10.1080/27694127.2022.2047442
MicrobiologyOpen
巻: 10 ページ: e1176
10.1002/mbo3.1176
http://www.nibb.ac.jp/pombe/