研究代表者はマウス胎児期の骨形成に関わる新しい役割を持ったAtg9a依存的な細胞死を発見し、この細胞死がアポトーシスやこれまでに知られている他の制御された細胞死とは異なる新たな分子メカニズムで実行されることを報告している。本研究では、この細胞死の詳細な分子メカニズムを明らかにし、この細胞死がどのように骨形成に関わるかを解明することで、細胞死の生体内での新たな役割を明らかにすることを目指している。 これまでに、in vitroにおいてコレステロールの生合成に重要な役割を果たすメバロン酸経路の律速酵素HMG-CoAレダクターゼの阻害剤であるスタチンがAtg9a依存的なネクローシス型細胞死を誘導することを明らかにし、メバロン酸経路の下流の代謝産物であるファルネシル二リン酸(FPP)とゲラニルゲラニル二リン酸(GGPP)の枯渇がこの細胞死において重要な役割を担っていることを明らかにした。Atg9a欠損細胞においてはメバロン酸経路をバイパスする経路が存在し、FPPやGGPPの枯渇を回避することで細胞死を回避している可能性を示唆する結果が得られたため、野生型細胞とAtg9a欠損細胞においてスタチン刺激下におけるメバロン酸経路にフォーカスしたメタボローム解析を行った。しかし、この実験系ではメバロン酸経路の代謝産物の同定が困難であった。しかしながら、FPPとGGPPを基質として実行されるタンパク質の翻訳後修飾であるプレニル化の標的となるタンパク質のプレニル化の状態を確認した結果、Atg9a欠損細胞では、野生型細胞と比較してスタチン刺激下においてもプレニル化されたタンパク質が長期に維持された。このことは、Atg9a欠損細胞においてFPPやGGPPんお枯渇が抑制されていることを間接的に示しており、Atg9a欠損細胞がメバロン酸経路をバイパスする可能性を支持するものである。
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