研究課題/領域番号 |
20K06502
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
河合 寿子 (久保田寿子) 山形大学, 理学部, 准教授 (10599228)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 光化学系 / チラコイド膜 / 原子間力顕微鏡 |
研究実績の概要 |
シアノバクテリアの光化学系I(PSI)は、PSI分子内に含まれるクロロフィルやフィコビリソームにて集光を行う。しかし細胞が鉄欠乏状態にさらされると、鉄ストレス誘導性クロロフィル結合タンパク質であるIsiA(iron stress induced gene A)を合成して集光を助けるという仕組みを持っている。本研究で注目している窒素固定シアノバクテリアAnabaenaのPSIは四量体を形成するという特徴を持っているため、IsiAが結合すると、光合成生物の中でも特に大きなクロロフィルネットワークからなる集光システムが構築されると予想される。本研究では、Anabaenaのチラコイド膜に埋め込まれたPSIの周囲にどのようにIsiAが配置されているかについて高速AFMを用いて解明することを目指している。 本年度はレーザーの波長やカンチレバーの種類を検討し、分解能の向上を試みた。そして、マイカに吸着させたチラコイド膜中にリング構造が再現性よく観察される条件を見出した。AFM画像から得られたラインプロファイルにより粒子の直径は70 nm程度と算出され、これらリングはATPaseの膜貫通領域と考えられた。その他に膜中には直径 20-30 nmの粒子が数多く観察された。さらに、チラコイド膜可溶化サンプルのAFM解析も行った。その結果、PSI四量体と考えられる粒子を観察することに成功した。ラインプロファイルによりこの粒子の直径は22 x 27 nm、高さは2-3 nmと算出され、クライオ電子顕微鏡で報告されているPSI四量体の大きさとよく一致していた。今後はさらに測定条件の最適化を行い、分解能向上を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度まで使用していた670 nmのレーザーではクロロフィルが励起されてPSIやIsiAがダメージを受けてしまうことが懸念された。そこで本年度はクロロフィルを励起させない980nmの半導体レーザーを用いてカンチレバーの振幅変調を計測した。また、カンチレバーの種類も検討した。これまでチラコイド膜上に蛋白質複合体の粒子が観察されてきたが、それぞれがどの複合体かは不明であった。今回の観察では明らかなリング構造が再現性よく観察された。このリング構造の直径は7 nm程であり、過去に報告されているATPaseリング部分の直径とほぼ一致することから、これらはATPaseの膜貫通領域であると考えられた。 最終的な目標はチラコイド膜上でのPSI四量体周囲のIsiAの配置を明らかにすることである。しかし、チラコイド膜の観察を通してこれまでにPSI四量体と確実に同定できる分子を得られていなかったため可溶化サンプルを用いてPSI四量体の観察を行った。βDDMで可溶化したままのサンプルではPSI四量体の画像が得られなかったため、Amphipolの一種NApolでの安定化を試みた (Amphipolは人工両親媒性ポリマーであり、界面活性剤と比較して極端に低い解離定数・速度を持つため膜蛋白質を安定化することができる)。その結果、PSIと考えられる4つの粒子が集合している画像を得ることに成功した。この四量体の直径は22 nm x 27 nm程、また表在性蛋白質の高さが2-3 nmであり、これまでに報告されているPSI四量体のクライオ構造の大きさと一致する。この画像を指標として今後はチラコイド膜上のPSI四量体やIsiAの同定を目指す。
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今後の研究の推進方策 |
現在までに、ATPaseのリング構造を捉えることに成功したが、PSIやPSIIなどの確実な同定ができていない。またPSIと推定される粒子の周囲にIsiAリングは確認できていない。今後は分解能向上を試みPSI四量体の周囲にどのように鉄欠乏時特異的集光アンテナIsiAが配置されているかを解明したい。 PSIのAFM解析を行うためには膜から突出するPSIサブユニットが少ないルーメン側がマイカに吸着し、PSI表在性蛋白質が突出している細胞質側がカンチレバー側に位置する必要がある。しかしながら、光化学系II(PSII)やシトクロムb6f複合体の表在性蛋白質は大きくルーメン側に突出しており、チラコイド膜の細胞質側がマイカに吸着する確率が高いと考えられる。実際、可溶化後NApol処理したPSI四量体のAFM測定中に表在性蛋白質が外れていく様子が観察されたが、このような構造はチラコイド膜での観察からは得られておらず、チラコイド膜はマイカ上に細胞質側で吸着していることが示唆された。そこで、あらかじめ塩処理でPSIIの表在性蛋白質を取り除いたチラコイド膜やPSII表在性蛋白質欠損株のチラコイド膜を利用してルーメン側がマイカに吸着するチャンスを増やすことを試みる。
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