研究課題/領域番号 |
20K06510
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
阪口 雅郎 兵庫県立大学, 生命理学研究科, 教授 (30205736)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 膜タンパク質 / 生体膜 / 膜透過 |
研究実績の概要 |
生体を構成する最小単位である細胞の中には、粗面小胞体という小器官があって、細胞を構成する膜の内在膜タンパク質や細胞外に分泌されるタンパク質の合成を行っている。本研究では、粗面小胞体で膜タンパク質が作られるときの、タンパク質の形づくりの仕組みの解明を目指している。これまでの進捗実績は下記である。(1)膜結合型リボソームから伸長してくるポリペプチド鎖が膜を貫通して定着する機構について、無細胞タンパク質合成・膜組み込み実験系を使って、膜組み込み過程を解析した。合成されてきたポリペプチド鎖の疎水性の高い配列部分が膜透過トンネルに進入した時点で膜内配置が決定するとする従来型の機構に加えて、一度膜のトンネルを通り抜けた後に、逆方向の動きが誘起され、膜透過トンネル部分に定着できる機構の実証を進めた。この新規な機構は、これまで説明できなかった、疎水性の不十分な膜貫通部分の膜定着を合理的に説明するものである。この機構には、私たちが見出してきた、正に荷電したアミノ酸残基による膜透過抑制と逆輸送誘起作用が直接的な要因になっていることも判明した。(2)タンパク質膜透過トンネルの作用機構に関わる遺伝子の探索では、これまでに50を超える遺伝子について、欠損によって疎水性配列の透過度、正電荷クラスタの透過度、シグナル配列の機能状況などに対する影響を定量解析してきた。透過トンネル通過を効率化する因子、抑制する因子、標的化を予想外にも抑制する因子など、興味深い機能が示唆される遺伝子を見出してきた。解析を継続する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)トランスロコンに結合したリボソームから伸長してくる新生ポリペプチド鎖の正逆両方向のダイナミクスと膜固定要因について、疎水性度が不十分な場合には、鎖の伸長直後に起きる第一段階での認識に加えて、一度透過してしまって、ポリペプチド鎖後方の正電荷に富む配列に誘起された逆方向の動きによってトンネルに戻って起きる第二段階の認識によって膜貫通が達成することを無細胞タンパク質合成膜組み込み再現実験系によって実証することができた。この第二段階目の認識には、第一段階での認識では不十分な、より低い程度の「疎水性度」が決定要因であることを明らかにした。(2)透過途上ポリペプチド鎖によるトランスロコン孔の専有と後続のポリペプチド鎖の膜組み込み受容を可能にする機構についても無細胞系での解析を鋭意進行中であるが、データの蓄積を進めているところである。(3)「膜タンパク質構造形成3要素」(標的化、疎水性配列の膜固定、正電荷の透過抑制)の識別にかかわる因子について、独自の解析手法を駆使して、各段階に影響する遺伝子を複数見出してきた。さらに、見いだされたものについて、ドミナントネガティブ効果の解析、点変異体による相補活性の系統的探索によって、それらの作用機構の解析を進行中である。
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今後の研究の推進方策 |
(1)疎水性配列の認識に、トンネルへのポリペプチド鎖進入時点(第一段階)と、ポリペプチド鎖逆行時(第二段階)とが明確に区別できることを見出した。今後、逆行に寄与する正電荷クラスタ配列と、中度疎水性配列との配置関連の精査を進める予定である。(2)複数回膜貫通膜タンパク質の膜貫通セグメントの配置機構について、正電荷の配置、親水性配列のトンネルの占有による膜貫通セグメントの形成阻止の観点で論文をまとめる方向である。(3)膜タンパク質のトポロジー形成要素の識別とトンネルの機能制御に関わる遺伝子の探索について、今後さらに対象遺伝子を増やすと同時に、候補遺伝子について、構造と要素識別との関連を精査し、これまでに前例のない新規識別機構を明確にする予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
生化学消耗品の需要が想定より少なく、若干の額を次年度予定とした。次年度では、これまで以上に培養および解析関連の消耗品の需要があると見込まれるため、それに充当する予定である。
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