研究実績の概要 |
水素の酸化・還元を触媒する金属酵素、ヒドロゲナーゼは広く様々な生物に見出されており、生物のエネルギー代謝において重要な役割を担っている。多くのヒドロゲナーゼは酸素存在下では不活性化されるが、一部の[NiFe]ヒドロゲナーゼは酸素耐性を持ち酸素存在下でも活性を維持できる。これらのヒドロゲナーゼは特異な鉄硫黄クラスターを持っており、酸化に伴い鉄硫黄クラスターが構造変化し活性中心に電子が供給されることで不活性化されるのを防いでいることが分かっている。最近、酸素耐性の無い標準型の[NiFe]ヒドロゲナーゼでも、酸化に伴い鉄硫黄クラスターの構造変化が起こっているようなデータが集まりつつある。本課題では、硫酸還元菌由来の標準型[NiFe]ヒドロゲナーゼを対象として、酸化還元に伴う鉄硫黄クラスターの構造変化を調べることで、[NiFe]ヒドロゲナーゼの酸素耐性獲得の要因を検討した。 試料調製のために、まず硫酸還元菌の大量培養を窒素フローにより嫌気的に行い、次いでグローブボックス(N2:97%, H2:3%)内で嫌気的に酵素の精製および結晶化を行った。また、得られた結晶を大気に暴露し酸素による酸化型結晶を調製した。これらの2つの状態についてX線結晶構造解析を行ったところ、大気暴露した結晶では、結晶中の一部の分子で3つある鉄硫黄クラスターのうち、活性中心に一番近い近位鉄硫黄クラスターで構造変化が起こっていることが分かった。この構造変化の様式に注目すると、Citrobacter sp.S-77由来の酸素耐性[NiFe]ヒドロゲナーゼに見られる構造変化と酷似しているものであった。
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