研究課題/領域番号 |
20K06514
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
岸川 淳一 大阪大学, 蛋白質研究所, 助教 (80599241)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 回転分子モーター / V-ATPase / クライオ電子顕微鏡 / 単粒子解析 / 膜タンパク質 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、クライオ電子顕微鏡を用いた単粒子解析により、ATP 合成酵素のプロ トン駆動力による回転力発生機構を明らかにすることである。ATP 合成酵素は、膜内外に形成されたプロトン駆動力を回転エネルギーに変換し、そのエネルギーを利用することで ATP を合成する。ATP 合成の最初のステップであるプロトン駆動力から回転エネルギーへの変換は、ATP 合成酵素の膜内在性ドメインが担う。プロトンが輸送される場合、プロトンそのものが膜横断的に移動するのではなく、水分子やそこに配位したアミノ酸残基を介して、玉突き的にプロトンが輸送される(入り口で、プロトンが1つ入ると、出口でプロトンが1つ押し出される)。したがって、分子内に存在する水分子が非常に重要な役割をもつ。しかし、構造情報の不足から、その複雑で巧妙な変換機構には未だに不明な点が多い。また、報告されている膜内在性ドメインのほとんどすべての構造は、阻害状態の構造であり、プロトンを輸送している途中の構造、いわゆる活性状態の構造の報告はない。本研究では、好熱菌 Thermus thermophilus 由来のV型 ATP 合成酵素の膜内在性ドメイン(TthVo)の活性状態での構造を明らかにすることで、膜内在性ドメインでどのようにプロトン駆動力が回転に変換されるかを明らかにする。本研究の前身研究である TthVo の構造を報告した(Kishikawa et al, 2020, eLife)。単離した TthVo が自己阻害型になっており、得られた構造から自己阻害型の機構を明らかにした。また、阻害型から復帰する機構を示唆することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、好熱菌由来の V 型 ATP 合成酵素の膜内在性ドメイン(TthVo)の活性型の構造を、クライオ電子顕微鏡を用いた単粒子解析によって明らかにすることを目的とする。単粒子解析を行うためには、サンプルを高純度で精製する必要があるが、精製条件は確立している。また、サンプルの単分散性も重要であるが、十分に単分散性が高いことも確認している。比較的高分解能で TthVo の構造を報告できたことからも、TthVo は単粒子解析に適したサンプルであることがわかる。精製したTthVo を用いて、クライオ電顕の観察用基板の調製も重要なポイントであるが、いくつかの条件で基板を調製し、クライオ電顕の撮影画像上で TthVo に対応する単粒子画像が確認できている。 調製した撮影用基板を用いて、クライオ電子顕微鏡 Titan Krios のよる撮影を行った。約6,000 枚の電顕画像から、最終的に15万個の粒子画像を選択した。選択した粒子を用いて3次元再構成を行ったところ、3.25 オングストロームの密度マップを得ることができた。これは、2020年に報告したTth Vo の分解能(3.94 オングストローム)から大きく改善した。得られた密度マップをもとに、原子モデルを構築することができた。原子モデルと密度マップを比較したところ、蛋白質に由来しない密度が確認された。しかし、それが水分子かそれ以外かを判別するには十分な分解能に至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
高性能Titan Krios による撮影により、以前論文で報告した密度マップよりより高分解能のマップを得ることができた。さらに、得られた密度マップをもとに原子モデルを構築したところ、蛋白質に由来しない余分な密度を観察することができた。しかし、現時点での分解能では、この余分な密度が何に由来するものかは判別が困難である(水分子、イオンなどが考えられる。)これらの疑問を解決するためには、さらに分解能を向上させる必要がある。 分解能を向上させるために、さらに単粒子像の撮影を行う。サンプルの精製法はすでに確立しているので、そのサンプルを用いて、再度撮影用の基板を調製する。これまで用いていた基板の材質は、モリブデンであったが、その他の材質として銅や金の基板を用いてみる。撮影用基板の調製が完了したら、その基板を用いてクライオ電子顕微鏡による撮影を行う。その後、今年度と同様に解析を行い、分解能の向上を試みる。 十分に高分解能の構造が得られれば、それをもとに精密な原子モデルを構築する。構築した原子モデルとマップを比べることで、プロトンを輸送するための水や残基の配置を議論する。また、得られた構造をもとにしたシミュレーションなどを組み合わせることで、Tth Voによるプロトン輸送機構を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額は、979円であり、ほぼ全額を支出した。 翌年度分の助成金と合わせて、研究の推進に使用する。
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