研究課題/領域番号 |
20K06526
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
森 智行 東京大学, 定量生命科学研究所, 助教 (30623227)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 構造生物学 / X線結晶構造解析 / 免疫調節薬 / セレブロン / ユビキチンリガーゼ複合体 |
研究実績の概要 |
サリドマイドの改良薬である免疫調節薬(immunomodulatory drugs: 以下IMiDs)は難病である多発性骨髄腫の特効薬であり、より薬理効果の高いIMiDs改良薬の開発が期待されている背景がある。IMiDsが直接結合する標的タンパク質は、ユビキチンリガーゼE3複合体(E3複合体)の基質受容体であるcereblon(CRBN)である。IMiDsはCRBNに結合して、多発性骨髄腫細胞の増殖因子である転写因子IKZF(IKAROS zinc-finger transcription factors 1/3)との結合親和性を高める「分子糊」として働く。IMiDsは、CRBNとIKZFの結合親和性を高めて、E3複合体によるIKZFのユビキチン化を促進してユビキチン-プロテアソーム系によるIKZFの分解を促進することで、細胞内のIKZF濃度を下げて多発性骨髄腫細胞の増殖を抑える薬理効果が発揮される。 これまでに、申請者は、IMiDsとCRBNの複合体構造解析をX線結晶構造解析の手法を用いて明らかにしてきた。そして、近年、市販のIMiDsであるサリドマイド、ポマリドミド、レナリドミドを使って、IMiDs-CRBN-IKZF三者複合体のX線立体構造解析に成功している。本研究では、これら分子複合体の立体構造情報を利用して、タンパク質複合体立体構造情報を基礎とした薬剤設計法(SBDD: structure-based drug design method)を用いて、効率的にIMiDsを改良して薬理効果の高い次世代IMiDs化合物を分子構造レベルの情報を基に選抜していく事を目的としている。これまでに市販のIMiDs化合物を使用して得られた構造情報をもとに、IMiDsのアナログ化合物を複数設計した。これらのIMiDsアナログを使用してCRBNとIKZFとの複合体結晶を得ている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナウイルス感染症の拡大にともなう東京都を含む緊急事態宣言等による物流の停滞と、放射光施設等の実験施設への出張や、利用が制限されるなどの不可抗力事由があったために当初の計画よりも、やや遅れがある。 これまでの進歩状況としては、CRBNタンパク質は、すでに論文発表してある既存の精製系を使用して大量に得た。IKZFは、大腸菌を用いた発現系を用いて精製系を確立して高純度のタンパク質を得ている。また、IKZFは、IMiDsアナログ化合物を使用した結晶化において、結晶構造解析に足る分解能を得るために発現領域の検討も行っている。 IMiDsアナログの方は、まず、市販のIMiDsであるサリドマイド、ポマリドミド、レナリドミドを使ったIMiDs-CRBN-IKZFの3者複合体のX線立体構造解析情報をもとにして、いくつかのIMiDsアナログ化合物、すなわちサリドマイド、ポマリドミド、レナリドミドにヒドロキシル基を付加したヒドロキシサリドマイド(Thal-OH)、ヒドロキシポマリドミド(Pom-OH)、ヒドロキシレナリドミド(Len-OH)を設計した。新たに設計したこれらのIMiDsを用いて、IMiDs、CRBN、IKZFを混合したタンパク質溶液を用いて結晶化条件のスクリーニングを行って、複数の結晶化条件を得た。得られた結晶化条件から、CRBN単体、IKZF単体結晶を除去するために、得られた結晶のSDS-PAGEやX線回折実験等で複合体結晶の選抜を行って、安定して複合体結晶が得られる条件の絞り込みを行っている。これまでに、Thal-OHを使用したCRBN-IKZF複合体については分解能3オングストローム程度の回折像を得ており、構造解析に足る、より高分解能の結晶が得られる条件を検討している。Pom-OH、Len-OHを用いた複合体結晶についてもX線回折実験を行って、構造解析を行っていく。
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今後の研究の推進方策 |
現在のところ、緊急事態宣言の発令等により当初の計画よりも進行速度にやや遅れがある。しかし、それを除けば、IMiDs アナログ化合物の存在下でのCRBN-IKZF複合体の結晶化条件の探索と結晶化条件の最適化に関しては、当初のねらい通りには順調に推移している。今後、構造解析に足る分解能が得られる結晶を得るために、より迅速に結晶化条件の最適化を進める。具体的には、結晶化条件に添加剤スクリーニングや、発現コンストラクトの見直しを進める。また、IMiDs存在下でのCRBNとIKZFの結合親和性を調べるために、溶液系での相互作用解析も進めていく。これまでに、IMiDs存在下でのCRBNとIKZFとの結合は、溶液系ではGST融合タンパク質を用いた従来のプルダウンアッセイ法では検出できないほど弱い結合であることが明らかとなっている。そのため、より高感度な相互作用解析の装置を使用する必要があると考えている。具体的には、等温滴定カロリーメトリー(ITC)や、表面プラズモン共鳴センサー(SPI)、バイオレイヤー干渉法(BLI)を用いて解析を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由は、研究計画の当初には全く想定していなかった新型コロナウイルス感染症の拡大により、感染拡大防止措置による緊急事態宣言等による出張自粛等により、予定していた旅費の使用が制限された。また、当初計画していた放射光施設などの実験施設の出張利用の制限や、計画通りの物品の入手も難しい状況であったためである。 次年度は、コロナウイルス感染症の拡大防止措置の状態を考慮に入れながらではあるが、放射光施設の利用や、必要品、とくに薬剤の使用枯渇を防ぐために、これらの消耗品の最優先入手に務める。旅費に関してはコロナウイルス感染症の拡大防止措置の状況により、学会等への出張が減る可能性がある。今後の動向によっては使用計画の変更を考慮する。
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