研究課題/領域番号 |
20K06527
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
小田 隆 立教大学, 理学部, 助教 (00573164)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 天然変性タンパク質 / 構造生物学 / X線小角散乱 / 古細菌 / 高速原子間力顕微鏡 |
研究実績の概要 |
2種類の好熱性古細菌(Tko, Pfu)のHefの天然変性領域(IDR)のN末端側にはαヘリックス上に塩基性残基が並ぶという特徴的な構造が予測されている。これがHefIDRがDNAに結合しPCNAのスライドを抑制するという機能を生み出すという仮説に基づき、2021年度は引き続き、TkoHefIDR, PfuHefIDRの変異体を作製し生化学的解析を行った。その結果、Tko,Pfu両者でIDRのN末端側の塩基性残基がDNAとの結合に重要であることが示された。一方、プロリンを挿入しヘリックスを破壊した変異体は、予想に反して野生型と同程度のDNA結合能を示した。また2020年度のCDスペクトル解析ではTkoHefIDRのN末端がヘリックスとランダム構造の平衡状態にあることが示唆されていたが、2021年度に行ったPfuHefIDRの解析では、常温でかつDNAが共存しない条件ではヘリックスをほぼ形成していないことがわかった。つまり、HefIDRの機能には予想していた構造的特徴は必須ではない可能性が考えられた。一方、好熱性古細菌の生理的温度である90℃でもCD測定を行ったところ、Tko, Pfuどちらもヘリックス含量が増加する結果が得られた。HefIDRは常温ではランダム構造がメインであるものの、生理的温度ではランダム構造からヘリックス構造へ平衡が移動し、さらにDNAとの結合時にヘリックス構造が安定化される可能性もある。またPfu、TkoともにIDRにPCNA結合モチーフが存在するが、PfuではTkoとは異なり2つのPCNA結合モチーフがあることがITCを用いた相互作用などから示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の想定とはやや異なり、DNAとの結合に重要なHefIDRのN末端側は常にヘリックスを形成しているのでは無く、好熱性古細菌の生理的な高温条件下でかつDNAとの結合時に誘起される可能性が出てきた。これまではHefIDR全体もしくはN末端ペプチドのどちらかを用いてCDスペクトル解析を行ってきたが、昇温によりHefIDRのどこに二次構造が誘起されるのかをより詳細に調べる必要がでた。HefIDRによるPCNAのスライド抑制については2021年度までのHS-AFM観察により、野生型HefIDRがPCNAのスライドを抑制することを示すデータを得ているものの、より確実な研究成果にするためには変異体HefIDRを用いて野生型と観察条件を統一した上でさらに多数の観察データを蓄積する必要が出てきた。しかし、2021年度までの実験では再現よく同一条件で長時間観察することが難しく、実験系をさらに工夫する必要がある。また、2021年度に予定していたPfuHefIDR/PCNA/DNA三者複合体のX線小角散乱実験データの解析については2つめのPCNA結合モチーフで結合している場合も考慮した上で解釈する必要が出た。
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今後の研究の推進方策 |
HS-AFMによるPCNAのスライドの観察については進捗状況に示した通り、変異型HefIDRを用いてより多数のPCNA分子のスライドを同一観察条件下で効率よく長時間観察するための条件検討を続ける必要があるため、これを行い、PCNAのスライド抑制の最終データとする。HefIDRのCDスペクトル解析で得られた昇温によるヘリックス含量の増加について、より具体的にHefIDRのどの領域で構造形成されるのか調べるために、2022年度は高温条件下でのNMR解析を行う。これにより生理的温度における構造形成とHefIDRの機能(PCNAのスライド抑制)について解明する。PfuHefIDRについては当初予想していなかった2つめのPCNA結合モチーフでPCNAに結合した場合でも1つめのPCNA結合モチーフでPCNAに結合した場合でもPCNAのスライド抑制機能があるのかを検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度(2021年度)は概ね当初の予定通り研究を実施できたが、一昨年度にコロナ禍の影響で執行できなかった予算の繰越しが生じていたため予算全体としては本年度分も繰り越しを生じることになった。また本年度は当初予定していた遠方への出張はできなかったため、旅費にも繰り越しを生じた。一方、出張をリモート実験などに切り替える必要も出るため来年度(2022年度)は研究試料の運搬費等が追加で必要となり、繰り越し分を使用する。また、今後の研究推進方策に示したとおり、PfuHefIDRについては当初想定していなかった2つめのPCNA結合モチーフについて詳細に検討するために合成ペプチドなどの消耗品を購入する必要が出たため、繰り越し分の予算を使用する。来年度予算は当初の計画通りNMR解析、AFM解析、その他生化学実験のための試料調製に必要な消耗品等の購入や論文投稿費用などに使用する。今後の研究の推進方針に記載した通りNMR解析については当初予定していた常温での測定に加えて高温での測定も行うため、追加の試料調製にも来年度予算を使用する。また来年度は遠方への出張も一部可能になると予想されるため当初の計画の出張費用も来年度予算から使用する。
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