研究課題/領域番号 |
20K06527
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
小田 隆 立教大学, 理学部, 助教 (00573164)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 天然変性タンパク質 / 構造生物学 / X線小角散乱 / 古細菌 / 高速原子間力顕微鏡 |
研究実績の概要 |
本研究では2種の好熱性古細菌(Tko, Pfu)由来のHefタンパク質について、天然変性領域(IDR)のアミノ酸配列が著しく異なるが、DNAクランプのスライド抑制という共通の機能を発現する機構の解明を目指す。2022年度は(1) スライド抑制効果の検証のためのHS-AFMによるDNAクランプのスライド観察条件の検討を行った。(2)スライド抑制に重要なHef IDRの構造的特徴を捉えるためにHef IDRの二次構造のより詳細な解析を行った。また、Pfu Hef IDRには当初予想していなかった2つめのDNAクランプ結合モチーフが存在することが前年度までの解析から示唆されたため、Pfu Hef IDRとDNAクランプ、DNAの三者複合体の構造を解析する前に(3)この機能について検討した。 (1)に関してはDNAクランプのスライドを安定に長時間観察するために、長鎖DNAの構造を変更したものを調製したが、それだけでは目的の達成は難しいことが予測された。 (2)に関しては、Tko Hef IDRのNMR測定を行い、得られた測定データを現在解析中である。 (3)に関しては、1つめまたは2つめのDNAクランプ結合モチーフどちらか一方でPfu Hef IDRとDNAクランプを共有結合させた複合体タンパク質を調製し、DNA結合能を生化学実験で評価した。その結果、どちらの複合体タンパク質もDNA結合能が同程度にあることがわかり、どちらもDNAクランプのスライドを抑制し得ることが示された。2つのモチーフの使い分けを解明するためには今後より詳細な変異体解析が必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
DNAクランプのスライド抑制という機能を評価するために多数のDNAクランプ分子を長時間安定にHS-AFMで観察する必要があるが、この条件の検討に難航している。観察を困難にしている原因は、DNA鎖にDNAクランプがロードされる頻度が低いこと、DNAを固定する基板上の脂質膜が観察中に変形や汚れを生じることなどである。 また当初Pfu Hef IDR、DNAクランプ、DNAの三者複合体の構造をSAXSにより解析する予定であったが、予想していなかった2つめのDNAクランプ結合モチーフの存在を考慮して解析する必要が出た。2つのDNAクランプ結合モチーフの機能評価など当初は予定していなかった解析のために遅れを生じている。
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今後の研究の推進方策 |
多数のDNAクランプ分子を観察するためにはDNA鎖上にDNAクランプがロードされる頻度を上げる必要がある。DNAを基板から大きく浮かせることでDNAクランプがロードされやすくなると予想されるため、次年度はこれに取り組む。具体的にはDNAオリガミなどを利用した観察を検討する。Hef IDRの二次構造の解析については2022年度に測定したNMRデータの解析を行い、DNAクランプのスライド抑制にHef IDRの二次構造が関わっているかを明らかにする。Pfu Hef IDRについては引き続き変異体を用いた生化学実験を行うことで2つのDNAクランプ結合モチーフの機能を評価し、そのうえでSAXSによる複合体の構造解析を行う。これによりDNAクランプのスライド抑制機構を解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
HS-AFMによるDNAクランプのスライドの観察に難航しており、当初予定していた実験、解析および出張を実施できなかった。これについては観察の方法を大きく変更する必要を生じたため、次年度に実施する。また、Pfu Hef IDRの解析についても予想していなかった2つめのDNAクランプ結合モチーフ発見のために、当初の計画とは異なる実験に時間を要した。そのため研究期間を延長し、2022年度に使用できなかった予算は次年度のDNAクランプのスライドの観察実験、Pfu Hef IDRの解析に使用し、当初計画した研究を完了させる。
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