研究実績の概要 |
地球上に生息する植物や藻類は、太陽の光エネルギーを利用する光合成によって生命活動を行っている。フィコビリソーム(Phycobilisome, PBS)は、巨大な水溶性の光捕集蛋 白質複合体であり、吸収した光エネルギーを光化学系蛋白質群[光化学系I(PSI), 光化学系II(PSII)]に伝達する。PBSから光化学系蛋白質群へのエネルギー伝達の仕組みは未だ詳細に解明されておらず、PBSの立体構造を明らかにすることは、藻類の光捕集・エネルギー伝達の仕組みを理解する上で極めて重要である。本研究は、PBSの立体構造を最新のクライオ電子顕微鏡測定・解析技術を駆使して解析し、PBSの光捕集・伝達システムを解明することを目的とした。 2020年度は、好熱性シアノバクテリア由来PBSの全体構造を負染色構造解析によって明らかにし、PBSを構成する各サブユニットの相互作用について議論した(Kawakami etal., Biochimica et Biophysica Acta, 2020)。そして2021年度は、共同研究者と共に分光学的解析によってPBSの光エネルギー伝達の仕組みを明らかにした(Hirota et al., Photosynth Res, 2021)。そして2022年度は、クライオ電子顕微鏡解析によってPBSの中心構造とその周りにあるアンテナ構造をそれぞれ3.7 Aと4.2 A分解能で解析、PBSの内部構造を詳細に調べ、PBS内で起こる高効率光エネルギー伝達機構を明らかにした(Kawakami et al., Nature Commun, 2022)。 本研究によって、藻類の持つPBSの光吸収とそのエネルギ伝達の仕組みが明らかとなり、この知見を人工光合成研究に取り入れることで、高効率光エネルギー伝達デバイスの開発に貢献することができると期待さる。
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