研究課題
本研究では,繊維芽細胞増殖因子FGF5を標的とした試験管内分子進化法(SELEX法)により得られたアプタマーと標的タンパク質FGF5の相互作用を原子座標レベルで明らかにすることを計画している.このアプタマーは,FGF5に対して特異的に,そして強固に結合する(解離定数Kd = 約0.1 nM)ことが明らかとなっており,そのメカニズムを明らかにすることによって,アプタマーを効率的に開発する方法を確立することを目的としている.SELEX法により得られたアプタマーは78残基であるが,FGF5との結合に不要な部分があると,NMRシグナルの重なりが多くなり,NMR解析は困難となる.また,X線結晶構造解析では,結晶化が難しくなることが予想される.そこで,構造解析のためにアプタマーの短鎖化を試みた.この結果,56残基に短くすることに成功し,アプタマーのFGF5結合部位は多岐ループの部分であることが明らかとなった.その後,短鎖化したアプタマーとFGF5を大量調製し,結晶化を試みたが,現在のところ結晶は得られていない.また, FGF5の受容体であるFGFR1cを調製した.さらに,表面プラズモン共鳴(SPR)を用いて競合実験を行い,アプタマーとFGFR1cは競合的にFGF5に結合することが明らかとなった.従って,このアプタマーは,FGF5が原因となって起こる疾病の治療薬としてのポテンシャルを持つことを確認することができた.また,活性があるFGF5とFGFR1cを調製する方法を確立することができたので,今後の研究を推進することができる.
3: やや遅れている
新型コロナウイルスの感染拡大により,一時期,坂本も研究協力者の大学院生も大学に入構できなくなり,実験に従事する時間も短くなったため,当初の計画より,やや遅れている.しかしながら,構造解析のためにアプタマーを56残基に短鎖化することに成功した.アプタマーの二次構造を予測した後,アプタマーの構造が不安定にならないように末端のステム部分を短くしたアプタマーを調製し,SPRを用いてFGF5との結合活性を保持していることを確認した.さらに, T7 RNAポリメラーゼ変異体を用いた転写システムによりアプタマーを大量調製した.また,研究分担者の堀内は,大腸菌による大量発現系により,FGF5を大量調製した.アプタマーとFGF5を用いて,結晶化を試みたが,現在のところ結晶は得られていない.また,大腸菌による大量発現系により,堀内はFGF5の受容体であるFGFR1cを調製した.このFGFR1cを用いて,表面プラズモン共鳴(SPR)を用いて競合実験を行った.FGFR1cを固定化したセンサーチップに対して,FGF5を注入するとセンサーグラムの上昇が観測されたが,FGF5とアプタマーの複合体を注入してもセンサーグラムの上昇は観測されなかった.従って,アプタマーとFGFR1cは競合的にFGF5に結合することが明らかとなった.活性があるFGF5とFGFR1cを調製する方法を確立できたので,今後,FGF5とFGFR1cの複合体の結晶化も試みる.
構造解析用の試料を大量に調製する方法を確立できたので,今後はNMR解析を進め,結晶化を進める計画である.アプタマーとFGF5の複合体を形成させた後,様々な条件で結晶化を行う.運動性が高い場合,アプタマーとタンパク質の複合体の結晶化は容易ではないことが予想されるが,NMRによって得られる情報によりアプタマーおよびFGF5を改変し,杉山が開発したゲルを用いる手法で結晶化を効率よく行う.結晶が得られたら,杉山がX線結晶構造解析を行う.X線結晶構造解析には,大型放射光施設SPring-8を利用する.また,SPRおよび等温滴定型カロリメトリ(ITC)を用いて,相互作用の速度論的パラメータと熱力学的パラメータを明らかにし, FGF5とFGFRの相互作用をアプタマーが阻害するメカニズムを明らかにする.
新型コロナウイルスの感染拡大により,一時期,坂本も研究協力者の大学院生も大学に入構できなくなり,実験に従事する時間も短くなったため,X線結晶構造解析用の結晶を得ることはできなかった.そのため,次年度に結晶化を進め,X線結晶構造解析による立体構造決定を行うため,次年度使用額が生じた.使用計画としては,遅れた分を取り戻すために坂本と堀内で協力して,様々な条件で結晶化を進める.そのために,試料を大量調製する.また,杉山が開発したゲルを用いる手法で結晶化を試みる.結晶が得られたら,杉山がX線結晶構造解析を行う.X線結晶構造解析には,大型放射光施設SPring-8を利用する.
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