研究課題/領域番号 |
20K06531
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研究機関 | 久留米大学 |
研究代表者 |
児島 将康 久留米大学, 付置研究所, 教授 (20202062)
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研究分担者 |
椎村 祐樹 久留米大学, 付置研究所, 助教 (40551297)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | グレリン / グレリン受容体 / GPCR / 脂肪酸 / オクタン酸 / X線結晶構造解析 / ギャップ構造 / フェニルアラニン・クラスター |
研究実績の概要 |
グレリンはアミノ酸が28個のペプチドの部分と、オクタン酸(脂肪の一種)とが合体した、他のホルモンとは異なった構造をしている。しかもペプチドからできているホルモンは普通はペプチドだけで活性があるが、グレリンは脂肪酸との結合がないと活性を示さない。なぜグレリンは脂肪酸がないと活性を示さないのかは、発見当時から長い間、不明だった。この謎を解明する第一歩として、今回、我々は不活性型のグレリン受容体の立体構造をX線結晶構造解析によって明らかにした。 グレリン受容体には細胞膜を貫通する領域が7つあり、そのうち第6番目と第7番目の膜貫通領域の間が広いギャップ構造になっていた。我々はこのギャップ構造を氷河の深い切れ目を意味する「クレバス」と名付けた。このクレバスには疎水性の強いアミノ酸のフェニルアラニンが集積している「フェニルアラニン・クラスター」が存在する。一般に疎水性の強いもの同士はくっつきやすい傾向があり、グレリンに結合している脂肪酸は疎水性が強い分子である。そこで、グレリンの脂肪酸部分が、この「フェニルアラニン・クラスター」と相互作用する(動かす)ことで受容体を活性型フォームに転換するのではないかと考えられた。 このような受容体のギャップ構造は、脂質が結合する受容体構造にも見られる。ただし、脂質受容体の場合は脂質が受容体の外側から中に侵入するための経路であるのに対して、グレリンの脂肪酸は内側から外側へと、その向きは逆である。つまりグレリン受容体はペプチドホルモン受容体と脂質受容体の両方の性質も持つハイブリッド型の受容体だった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
なぜグレリンがオクタン酸の修飾を受けていないと活性を示さないのか、その理由を明らかにするにはグレリンとグレリン受容体が結合した立体構造の解明が必須である。その第一歩として、まずアンタゴニストが結合した不活性型のグレリン受容体の立体構造に取り組んだ。それはグレリンが結合した活性型グレリン受容体は熱安定性が低く不安定であり、不活性型グレリン受容体の立体構造から熱安定性に関与するアミノ酸の配置を探り、そのアミノ酸を変異させて、熱安定性に優れた変異グレリン受容体を見出す必要があるためである。 これまでの研究で、アンタゴニストが結合したグレリンの立体構造を解明することができた。今回の研究で個々のアミノ酸の立体構造での配置が明らかになり、どのアミノ酸がリガンド結合に関与するのか、またGタンパク質とのカップリングに必須なのかが高い精度で推測が可能となった。 以上のことから、本研究はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
最近の膜タンパク質の立体構造解明には、クライオ電子顕微鏡を用いることが主流となってきている。しかしクライオ電子顕微鏡では、解析対象のタンパク質にはある程度の分子量が必要(60~70kDa以上)であり、とくに膜タンパク質は界面活性剤ミセルに包まれていることもあって110kDa以上の分子量が必要である。そのためGPCR(平均の分子量は40kDa程度)の解析においてはGタンパク質(分子量は80kDa程度)との複合体を形成して解析されていることが多い。したがってグレリン受容体の活性型の構造解析においても、Gタンパク質(グレリン受容体の場合は主にGqとカップリングしている)との複合体形成が必要である。 しかしGタンパク質の中でもグレリン受容体とカップリングするGqタンパク質だけは、他のGタンパク質に比べて発現が非常に困難であり、これまでにGqとカップリングしたGPCR受容体で3D構造が解かれた報告はまだない。そこでクライオ電子顕微鏡による3D構造解析を目指して、グレリン・グレリン受容体・Gタンパク質の複合体を形成するために、今年度は次のような方法を考えている。 ① Gi、G12, G13などとのカップリングで解析する グレリン受容体はGqカップリングが主であるが、Gi、G12, G13ともカップリングする。これまでの研究ではGi、G12, G13は培養細胞系において発現が良好であり、グレリン以外の例ではμオピオイド受容体やニューロテンシン受容体などではGiとの複合体を形成してクライオ電顕による活性型の構造解明に成功している。そこでグレリン受容体の場合もGi、G12, G13とのカップリングを行い、活性型の構造を明らかにする。現時点ではグレリン受容体とG13との良好なカップリングが確認されており、今後の解析に有望である。
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次年度使用額が生じた理由 |
クライオ電顕での試料作成の検討に予想以上に時間を費やしたため、予定していた消耗品の金額が少なくなった。 グレリン受容体とG13とのカップリングによってうまくいきそうな感触を得たため、今年度はさらに消耗品を消費することが予想される。
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