本研究は、核磁気共鳴(NMR)法において、タンパク質等の多次元相関スペクトルを測定する際、共鳴周波数(化学シフト)情報を得るためのパルスシーケンス中の待ち時間に磁化が緩和してしまうことを原因とする感度の低下を避けるため、選択励起パルスを用いて周波数情報を符号化し、フーリエ変換以外の方法でその情報を復号することを目指すものである。このアイディアを実現するには、情報を効率的に得るために適応的に実験条件を定めることが極めて有効で、この部分の技術開発が実用性に大きく影響を与える。こうした適応的な実験条件最適化は、chemical shift saturation transfer (CEST)実験では、この部分を開発するのみでただちに実用化が可能であることから、CEST実験を題材にして、適応的な実験条件最適化に取り組んだ。今年度は、これまでに開発したCEST実験のフォワードモデルの計算の高速化、繰り返し実験ごとのベイズ推定とそれに基づいて次の実験から得られる情報量の期待値を計算して実験条件を選択する方法の検証を進めた。本法の実証実験および対照実験の結果について、求めたい各パラメータの精度・確度を算出した。また、本法が有効であることを示すため、さまざまな条件におけるシミュレーションを追加した。さらに、本法では、実験条件のスコアとなる目的関数の定義を、研究ごとの興味に応じて変えることで、柔軟に得たい情報が得られる性質があるが、これを示すため、実験の途中で研究者が介入し目的関数を変更することで、確かに得たい情報を優先的に得られるようになることをシミュレーションで確認した。これらの成果をとりまとめ、研究論文の原稿を作成した。
|